FIGワールドカップ個人総合・イギリス大会報告

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■期日:2014年12月1日(月)、2日(火)~12月8日(月) 大会情報・結果へ
■場所:イギリス/グラスゴウ/エミレーツアリーナ Emirates Arena
■選手団:<コーチ>森泉貴博、畠田好章<選手>田中佑典、神本雄也<トレーナー>中島啓<男子審判>辻哲夫<技術スタッフ>村上拓
■大会概要
今大会は男女個人総合選手権で、招待された男子6か国8選手、女子7か国8選手で競技が行われた。オリエンテーションミーティングで大会と試合進行などの説明が行われ、演技順に関しては事前に抽選が行われていた。男子は、ゆかからのスタートで8名の班編成で行われる。また、全員で種目前のワンタッチウォームアップがあることが確認され、3種目目のつり輪から男女交互で演技を行うことになっていたが、この競技進行について、各国のコーチから男女16名が演技するとウォームアップから演技までの時間が長いという理由から、前・後半4名ずつの選手でアップ・演技を行えるようにリクエストし、運営サイドが協議した結果、今大会はスタート種目から前・後半4名ずつで行う事となった。2種目目以降の演技順は、シュツットガルト大会同様に、前の種目での総合得点が低い選手から演技を行うオーダーであり、見ている観客や選手、コーチにも分かりやすく競技を楽しんで見られるような工夫があった。また、男女交互に演技する事で得点による試技順変更にも負担無く進行できていると感じた。
使用された器具はコンチネンタルスポーツ社製で、日本ではあまり馴染みのないのもであった。ゆかに関しては、昨年もスプリングが入っていないフロアだったが、今年もスプリングが入っておらず、多くの選手が練習から調整に苦しんでいる様に伺えた。FIG公認の競技会であるならば、現在バネのゆかが主流となっているので、世界のどの国で競技会が開かれても統一されるべきだと感じた。
■練習状況・試合内容
<12月2日>
田中選手は、前日にドイツから移動してきている為、練習会場での調整練習を行った。神本選手は、グラスゴウ空港に到着後、大会組織委員会の出迎えがあり、車でホテルまで送って頂いた。夜19時頃にホテルに到着。長時間の移動であった為、夕食を摂り明日の練習に備えた。
<12月3日>
トレーニングは試合会場ではなく、ホテルから車で15分ほどのスポーツクラブでの練習となった。施設としては、跳馬と鉄棒がピットのみであったが、到着翌日であったので、調整練習として問題はなかった。器具は試合で使用するコンチネンタルスポーツのものであったが、少し古い器具であった。田中選手は試合後すぐであり、神本選手も時差や移動の疲れもあった為、器具や体の状態に合わせて練習を行った。
<12月4日>
14時30分から18時30分まで、試合会場でのポディウムトレーニングを行った。試合までにじっくり練習できる唯一の日程であったこともあり、2名ともに通し練習も含めた全習に近い練習を行い、両選手ともに良い練習が行われた。ゆかフロアがスプリングの入っていない為、両選手だけでなく他の選手もゆかの跳ね方は苦労していた。
<12月5日>
9時から11時30分までの練習が行えたが、明日が試合ということ、体調も悪くなかったこともあり、約2時間で調整練習を終えた。練習後の夜には、オリエンテーションミーティングが行われた。
<12月6日>
約2時間の本会場ウォームアップ、その後開会式があり、試合開始となった。開会式は選手が1名ずつ紹介されながら舞台に整列し、その後フロアへ移動し競技が開始された。
・第1ローテーション ゆか
(田中佑典)Dスコア6.3 Eスコア8.866 決定点15.166
2番目の演技。1コース目の前方2回半ひねりで多少ひねり不足であったが、着地をまとめた。他のタンブリングは確実に実施し、ラストの後方3回ひねりも着地をまとめて高得点獲得、全体の2位。
(神本雄也)Dスコア6.0 Eスコア8.300 ライン減点-0.3 決定点14.000
7番目で演技。スタートからほぼ着地を止めて良い実施。後半、十字倒立でぐらつき、その後の後方2回半~前方1回ひねりで前にかかり、着地が低くなる。ラストの後方3回ひねりで少し動いた後に更に後ろに1歩足が出た時にラインオーバーの減点。後半の着地とライン減点が響き高得点は獲得できなかった。全体の6位。
・第2ローテーション あん馬
(神本)Dスコア5.2 Eスコア8.300 決定点13.500
3番目の演技。セア倒立とリーニンは良い実施で、その後も非常に良い演技を続けていたが、終末技の逆リア倒立からひねることが出来ずC難度で降りてしまい、Dスコアを下げてしまう。
(田中)Dスコア6.0 Eスコア8.700 決定点14.700
6番目の演技。最初のセア倒立で前に手が出るミスが出たが、その後の演技は、減点の非常に少ない美しい演技でEスコアも高い得点を獲得した。
・第3ローテーション つり輪
(神本)Dスコア6.5 Eスコア8.766 決定点15.266
5番目の演技。前半の力技の連続技で確実に静止時間、姿勢を決めて後半のスイング系の技も良く、着地も止めてつり輪では1位の得点。悪い流れを断ち切った。
(田中)Dスコア6.1 Eスコア9.000 決定点15.100
6番目の演技。前半の2つの脚上拳十字懸垂で会場が湧く素晴らしい実施だった。倒立の決めも良く、最後の着地も小さく1歩におさえた。
・第4ローテーション 跳馬
(神本)Dスコア5.6 Eスコア9.133 決定点14.733
シューヘルトを実施したが、高さもあり着地は1歩横に動いたが、ラインはぎりぎり出なかった。合計で3位となり、後の2種目が得意なだけに上位浮上が狙える位置につけた。
(田中)Dスコア5.2 Eスコア8.833 決定点14.033
ドゥリッグスを行う予定でいたが、前大会と同様に突き手が入りきらず、急遽アカピアンに変更した。跳躍自体も余裕が感じられるものではなく、着地は大きく1歩。合計では依然2位であったが、1位のベルニアエフが6.0のドラグレスクを決めた為、リードを大きく広げられる苦しい展開となった。
・第5ローテーション 平行棒
(神本)Dスコア6.5 Eスコア7.533 決定点14.033
前半のシャルロで倒立の外れを残そうと粘った時に、手を持ち損ねてしまいバー上に乗ってしまう大過失。難度も認定されず、その後の屈身ベーレがかかえ込みとなり更にDスコアを下げる。他の実施自体は良く着地も止めたが、最も得意とする種目での失敗で上位進出が厳しくなった。
(田中)Dスコア6.4 Eスコア8.800  決定点15.200
非常に丁寧で素晴らしい演技を実施する事が出来た。着地までしっかりと纏め、高得点を獲得して2位を確保したが、1位ベルニアエフ、3位オロスコ両選手も更に得点を上げてくる展開。
・第6ローテーション 鉄棒
(神本)Dスコア6.7 Eスコア7.466 決定点14.166
3位との点差から完璧な演技をしなければ届かない状況。最初のアドラーひねりから伸身トカチェフで良い位置かと思われたが、バーを持ち損ねてしまい落下。もう一度トカチェフを実施してその後の演技は良く着地も見事に止めたが、落下が響いた。結果、3位とは更に差が開いた4位となった。
(田中)Dスコア7.2 Eスコア8.466 決定点15.666
5種目終了時点で2位につけての演技となった。最初のカッシーナを確実に決め、その後の演技は、素晴らしく着地は少し動いたが、彼の良さは十分に出せた演技であった。見事銀メダル獲得。あん馬の少しのミスや跳馬のDスコアを下げた部分はあったが、それ以上に優勝したベルニアエフ選手の強さと安定性が勝った形となった。3位にはアメリカのオロスコ選手が入った。
■総評
2014~15「ワールドカップ個人総合大会」は、日本での大会は開催されず、先週行われたシュツットガルト大会、今回のグラスゴウ大会、2015年3月にあるダラス大会の3大会で総合優勝を決定する事となっている。今大会には、シュツットガルト大会に引き続き田中選手、アジア大会個人総合チャンピオンの神本選手が辞退した内村選手の代わりに出場した。また、シュツットガルト大会からウクライナのベルニアエフ選手、ブラジルのササキ選手も出場しており、地元イギリスからは2名の若手選手が出場した。今大会の個人総合争いとなる選手は5名に絞られていた為、シュツットガルト大会同様、1つの大過失が順位に大きく影響する事が予測出来、良い緊張感が会場を包んでいた。
1種目目のゆかで、南寧世界選手権で個人総合7位、シュツットガルト大会で2位となったササキ選手が終末のダイビング2回宙返りハーフで右ひざを負傷し、その後の演技を行えなかった事が非常に残念であった。優勝したベルニアエフ選手は、昨年に続きシュツットガルト、グラスゴウ両大会共に連覇する素晴らしい試合運びであった。南寧世界選手権でも、つり輪の着地で大過失をしながらも2位と僅差の4位であった。Dスコアでも世界選手権と比較すると、あん馬では0.2上げて、後半の平行棒と鉄棒は0.2ずつ下げて確実性を上げて優勝を掴んだ。6種目合計Dスコアは、平行棒と鉄棒を元に戻せば39.4になる。Dスコアだけではなく、姿勢欠点も少なく以前よりも安定性が増し、演技に強さもあり、近年着実に力を着けている選手で、来年の世界選手権では内村選手の連覇を阻む最有力候補である。今大会での田中選手は、先週のシュツットガルト大会と比べると体の疲労はかなりあったと思うが、試合をこなした事により時差や体調も良くなり、何より試合勘が戻った事が良い結果に繋がったのではないかと感じた。また、2週連続で競技を行う事を経験し、個人総合におけるW-upや調整の仕方等、非常に良い経験と勉強をする事が出来たのではないかと思う。神本選手は、昨年のシュツットガルト大会と同様に得意種目である平行棒、鉄棒での失敗が大きく響いた試合となった。また、Dスコアも上位3名の選手と比較しても1点以上低いことから、来年に向けての課題が改めて分かった大会であった。
最後に、競技会運営及び選手達へのサポートを頂いたイギリス体操協会、組織委員会の皆様、関係各位に感謝を申し上げ報告とする。
報告者:森泉貴博、畠田好章

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