北京オリンピック女子団体決勝レポ

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 2006年世界選手権・オーフス大会で世界の頂点に初めて立った中国女子チームは、地元開催のオリンピックで初めての金メダルを手にした。男子の優勝とともにその活躍と努力を讃えたい。そして女子は5位と大躍進。ミスをしない演技を前提とした強化の方向性が、ミスの許されない団体決勝において結果として表れた瞬間だった。
<第1ローテ>
 ゆかは比較的A得点を獲得しにくい種目のため、得点が伸びない。しかし、平均台や段違い平行棒と異なり落下などの危険性が小さく、最初の種目としては思い切り取り組める種目である。団体予選8位の日本はそのゆかからのスタートとなった。
 最初の演技者は新竹。細かなミスからその緊張感が伝わってきたが、最初の演技者として堂々とその役割を果たした。続く鶴見も着地を決めきれなかったが丁寧な演技を披露。最後の大島は団体予選とは見違えるほどメリハリのある動きで、自分の演技をオリンピックという最高の舞台でしっかり表現した。結果チーム得点42.675。
 なお、中国とアメリカの優勝争いは跳馬から、そしてロシアとルーマニアの3位争いは段違い平行棒から始まり、呉越同舟の試合展開は目を離せないものとなった。
 中国は予選でA得点6.5の跳躍を跳んでミスを出した江をエントリーしていたが鄧に変更。A得点でのアメリカへの対抗を避けてミスのできない団体決勝における安定性を選択。鄧は交代出場にもかかわらず「ユルチェンコ2回ひねり」の着地を止める。中国よりA得点で勝ることになったアメリカは、スローン、ジョンソン、サクラモンともにまとめ、46.875で中国(46.350)を上回る。なお、段違い平行棒世界チャンピオンのセメノワが得点を引き上げロシアが46.950を獲得してトップ。ルーマニアは45.000とチーム得点を伸ばせず厳しいスタートとなった。
<第2ローテ>
 日本はゆかから跳馬までの間がなく、3選手中2選手がゆかの後、すぐにアップしなければならないため、その影響を心配した。しかし、跳馬の強化を指針に置き、国内合宿において十分に練習を積んできた成果から、新竹、上村、大島の3選手がユルチェンコ1回半ひねりを成功させた。とりあえず苦手種目をミスなく乗り切り、チーム得点43.550(合計86.225)。
 段違い平行棒のアメリカ、予選で失敗したメメル、リューキンともにミスなく演技。リューキンの得点は16.900で中国に大きなプレッシャーをかける。中国は得意種目であり、江、楊、何の若手が緊張感を抑えながら成功。楊と和両選手が16点台後半の得点を出してアメリカを上回る。なお、平均台におけるロシアはグレベンコワとパブロワが落下。チーム得点44.900(合計91.850)と伸ばせず後退。ルーマニアは何とか46.175(合計91.175)を獲得してロシアを追いあげる。
<第3ローテ>
 日本は跳馬の演技から段違い平行棒まで少し時間があるため、集中を切らさない必要がある。その点、団体決勝初登場となる黒田がトップとして応援を二の次に準備に集中し、見事トップバッターの責任を果たす。鶴見、大島も演技をまとめ45.525(合計131.750)を獲得し6位に浮上。
 平均台に移った優勝争いは中国が先行。1番目の程が「後転とび~後方かかえ込み宙返り1回ひねり」の高難度技で落下。次の鄧は、シリーズがつながらないなど、1番手のミスによるプレッシャーがのしかかる。しかし落下せずに終え、予選平均台トップの得点を獲得した李につなぐ。李もターンでふらつくなどしたが、着地を決めて会場が盛り上がる。アメリカはここをノーミスで乗り切りたかったが1番手のサクラモンが入りの前方宙返り上がりで落下。6-3-3制の怖さを見る。続くリューキンとジョンソンがそのミスをカバーするが47.250で、47.125を獲得した中国を十分に追い詰めることができずに最終種目へ。ゆかではロシアがアファナシェワ(-0.5)とパブロワ(-0.3)が大きくライン減点を出すミス。ライン減点は専門家がつける技術欠点とは異なり、誰もがわかる罰則。決定点から減点されるため、この罰則の重みは大きい。それに対してルーマニアはポイントゲッターのイズバサが15.550を獲得し、チーム得点45.075(合計136.250)でロシアを逆転。
<最終ローテ>
 緊張感の高まる中、1番手の黒田が予選同様に落ち着いて演技して14.725。2番手新竹も15.000で鶴見につなぐ。落ち着いた演技を続ける鶴見がターンでバランスを崩すが持ちこたえ、15.225を獲得し44.950(合計176.700)。この時点でフランスを上回り7位以内を確保。
 アメリカはパーフェクトの演技で中国にプレッシャーをかけ、逆転を目指したが、1番目のサクラモンが後ろとびひねり前方かかえ込み2回宙返りで尻もち。リューキン(-0.1)、ジョンソン(-0.1)ともにライン減点を出し、相手に余裕を与える展開になった。中国は男子同様、精神的な余裕のもと、のびのびと演技。結局、チーム得点合計は中国188.900、アメリカ186.525。歴史的なページを地元北京の中国女子体操がその名を刻んだ。
 3位争いをしていたロシアとルーマニアは跳馬。いずれも3選手がユルチェンコ2回ひねりで勝負するが、ルーマニアの実施が上回り、チーム得点合計はルーマニア181.525、ロシア180.625でルーマニアに軍配が上がった。ルーマニアはオリンピック団体メダルをコマネチのいたモントリオール大会から9大会連続で獲得。しかしロシアは旧ソ連から数えて、ボイコットしたロサンゼルス大会を除くと、初出場のヘルシンキ大会(1952年)からすべての大会で続けていたオリンピック団体メダルを途絶えさせることになった。ロシア女子は若手がここへきて成長し、その活躍が期待されたが、男子同様、体操伝統国の立て直しを迫られることになった。
 今回、日本女子は予選においてチームA得点10位、チームB得点6位で団体決勝に進出した。体操は人に見せてできばえを評価するスポーツである以上、難しい技を優先して落下するチームより、やはり大過失なく演技するチームに勝ってほしい。その意味で、団体決勝を大過失なく演技した日本女子は世界でもっとも体操競技の本質を表現したチームと評価していい気がする。