第1回ユースオリンピック(男子体操)報告

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■現地でのコンディショニング
8月12日
 選手と21時頃に合流をした。神本選手は他の競技の選手と仲良くなり元気に選手村に入った。選手は少し疲れていたので1日ストレッチ程度の運動で終えた。
8月13日
 本会場練習(ポディウム練習)の日。神本選手は、午前中練習会場でトレーニングを行い、ポディウム練習の際に良い状態で練習を行うための準備をした。その際、他国の選手も同じことを考えていた。ポディウム練習では、試合を想定したシミュレーションを行った。あん馬からのスタートである為、念入りに緊張の度合いを確認し演技を行ったが入りのBシュテクリで失敗。かなり緊張している事がうかがえた。2本目の演技でリズムを取り戻しまずまずの出来であん馬を終えた。つり輪では、審判が演技構成の確認をしている中での練習はかなり良い出来であった。着地も小さく1歩でまとめた。跳馬はロイター板の硬さに戸惑いが有ったが回数を重ねるうちに良い跳躍ができるよう修正できた。平行棒は、大きなミスも無く無難に演技を終える。着地の確認を念入りに行った。鉄棒は、放れ技で少し苦戦したが、まずまずの出来であった。しかし、放れ技に微妙なズレを感じる。ゆかでは、バネの違いに多少苦戦していた。
8月14日
 夕方から総合開会式のため、午前中のみの練習であった。昨日のポディウム練習での修正に時間をかけ練習を行った。予選前日は、調整練習で6種目の基本練習と、軽く汗を掻く程度の練習で終えた。その後、選手とミーティングを行い明日の予選に備えた。ミーティングでは、日本の代表選手として恥ずかしくない試合をする。得点や周囲を気にせず、自分の演技に集中する、また日本の美しい体操をアピールするなど細かく話し、明日に備えた。
■各種目の試合経過と戦評
8月16日 個人総合予選・種目別予選
 予選当日、順調にW-UPを行い、体調も良い事を神本選手本人・コーチである私もすごく感じていた。試合前の最終器具の確認はつり輪から順調に進んでいたが、最終種目試合20分前、あん馬の練習中神本選手に異変がおきた。思うように技が出来ず頭を抱えパニックになり練習を中断、私が見たところかなりの緊張で顔が真っ青になっていたので、自分の演技の良いイメージや今までの経過などを話し自信を持たせ落ち着かせた。       予選では、あん馬からのスタート、3分アップではまずまずのアップを終えた。競技は5番目の演技順であった。入りのBシュテクリから1ポメルで少し腰を引いたが順調に入った、前移動から後移動はスピードに乗り良い流れであった、交差ひねりで少し馬端に足を摩らしたが順調、逆リアー倒立下りはC難度でまとめまずまずの出来でスタートを切った。
 つり輪、種目別を狙う大事な種目である。見せ場の「伸身のヤマワキ(E)~抱え込みヤマワキ後ろ振り倒立」を良い出来で決め、着地は少し片足が浮いたがまずまずの出来であった。
 跳馬、ユルチェンコ2回ひねりは、入りで少し肘が曲がったが着地を1歩で抑え15.75点をマークし無難にまとめた。
 平行棒は本人が最も得意とする種目で、つり輪と同様種目別を狙っている種目である。入りのアームカットを無難に抑え、棒下ひねりで少しバランスを失い、手を少しずらすが棒下から車輪ディアミドフで立て直した。少し不安の有る後半のヒーリーを良い出来でこなし下りの屈身2回宙返りで着地半歩後ろに出し、出来とすれば8割ぐらいの演技内容であった。
 鉄棒は、練習の時から、放れ技に少し不安を抱えたまま演技開始をむかえたが、伸身トカチェフを無難にこなしまずまずの出来、後半のトカチェフは本人の判断でシュタルダーに変更、着地を決めピンチをしのいだ。
 全体では、ローテーションが非常に遅く集中力を持続させるのに、少し苦労したが、ほぼ完璧な試合運びで予選を終え合計87.20で予選トップに立ったが2位との差は0.35点という謹差であった。
 種目別予選では、ゆか14.50点(2位)・あん馬13.65点(5位)・つり輪14.50点(2位)・平行棒14.85点(1位)・鉄棒13.95点(5位)と5種目で予選通過という結果であった。
8月18日 個人総合決勝
 決勝当日は、神本選手は非常に落ち着いておりサブ会場での練習の前から予選の反省をふまえ、今日すべき準備は何かを入念にイメージトレーニングしている姿がウォーミングアップをする前の段階から見られた。その後、器具練習に入っても、本人がイメージしている練習、また指導者である私がイメージする練習が出来、神本選手の調子の良さをあらためて実感した。
 試合はゆかからのスタートであった。神本選手は、第1タンブリングで、予定していた後方2回半ひねりからの伸身前宙1ひねりで蹴りが抜け、瞬時に伸身ハーフに演技構成を変更した。小さなミスは出たが非常に落ち着いた内容でスタート種目のゆかを終えた。
 第2ローテーションのあん馬は、本人が一番苦手意識の強い種目であった為、私は神本選手に体を緩めずスピードのある演技をするようにアドバイスをした。神本選手は、不安の有る種目という事を感じさせない程の安定した内容で演技前半を終えたが、終末技で多少ミスが出たものの大過失にはならず演技を終えた。
 第3ローテーションは神本選手が得意とするつり輪、ポディウム練習の時から注目されていた伸身ヤマワキを成功させ、高得点をマークした。3種目を終えた時点で神本選手は42.00点トップに出た、2位のイギリスの選手との差は+0.6点という謹差であり気は抜けない状態であった。 第4ローテーションの跳馬では、ウクライナの選手が6.6という価値点の高い跳躍を持っており神本選手は、着地の減点を最小限にしなければ点差が縮まるのが予測されていたが、神本選手は着地をまとめ15.70点・ウクライナの選手は着地で大きく動き、点差を縮めることは出来なかった。私は、この時点で優勝の可能性が非常に高いことを感じた。なぜなら選手とのシミュレーションの中で作り上げてきた通りのパターであったからだ。神本選手もそれを十分感じていたし、残り平行棒・鉄棒は本人の得意とする種目でもあった。 第5ローテーションの平行棒は、演技順が1番であり、他国の選手の演技を気にせず演技が出来、着地まで止めてほぼ完璧な演技で14.60点と5種目を終えて2位との差を+0.8と大きくひきはなし最終種目鉄棒に入った。2位に着けていたイギリスの選手が、放れ技で落下をしたが神本選手は顔色一つ変えず準備していた。最終種目、最終演技者という中、非常に落ち着いており自分の演技に集中した状態で演技に入り、守る事無く自分の演技に集中して演技を終え、見事個人総合初代チャンピオンとなった。
8月21日 種目別決勝1日目
 ゆかは、メダルを取るという意識が高くなりすぎ、第1タンブリングでお尻を着く大過失をしてしまい13.05点で8位という残念な出来であったが、そのことで本人は冷静さを取り戻した。
 あん馬、苦手種目である為演技価値点を抑えた構成を考えていた為、ほぼミス無く終え13.325点となり6位であった。しかし本人も私の中でも満足いく演技内容であった。
 つり輪は、個人総合2日間ともルーマニアの選手に0.1~0.2点負けていた為、着地の勝負と見ていた。神本選手はほぼ完璧な演技で終末技を迎えたが着地で少しバランスを崩し0.15点届かず銀メダルの2位であった。
8月22日 種目別決勝2日目
 神本選手は平行棒、鉄棒のエントリーであった。平行棒は、本人得意とする種目で本大会2日間とも高得点をマークしていたが、入りで手を滑らせ価値点を大きく下げ大過失となってしまいメダルを取る事は出来ず6位であった。鉄棒は、離れ技を2回入れ価値点を上げて臨んだが着地で大きく動き3位との差はわずか0.025点で惜しくも4位となってしまった。
■競技の総評と反省
 今大会が第1回目のユースオリンピックという事で、大会規模や運営などの情報が非常に少ない中での出発であった。またジュニア選手の情報収集も強豪国の欧州勢はアイスランドの火山の噴火の影響でヨーロッパ選手権を欠場するなどがあり戦略をたてる資料が少ないまま現地に入った。
 その中で、私は神本選手に技術面だけではなく、自分自身のコンディショニングやメンタル面での強化を重点的に行った。また試合において、試合の流れを自分のシュミレーション通りに出来るかなどを具体的にして強化した。その結果、練習会場でのトレーニングや休息の使い方などが、神本選手の行動を少しずつ変え成長させたと感じた。
 試合では、神本選手の得意・不得意種目から考え、ゆか・あん馬は、苦手種目であった為、無理をしない演技構成を考えた。反対に得意種目では、アピールする部分を行かした演技構成を組んだ。試合運びについては、前半3種目を以何にミスを減らし我慢できるかという事、後半種目は得意としている為、跳馬・平行棒・鉄棒は、失敗を恐れず思い切った演技をする様に指示した。また、順位は1位との差が-1.0点内であれば優勝の可能性有りと神本選手に言い聞かせ競技会にのぞんだ。
 結果、3種目を終えて1位になっていた為、シミィレーション通りと判断し、神本選手に伝え本人も慌てる事無く自分の演技に集中して試合を進めていた。
 今回は、個人総合優勝という歴史を残せたが、同時に今後の課題も多いと感じた。ウクライナ・イギリスの選手は、今回ミスはあったものの、6種目平均して強化しているのが十分みてとれた。また基本技の正確さにも驚かされた。
 今回のユースオリンピックは、オリンピック同様選手村での生活や、文化教育プログラムなど、様々な普段体験できない形での大会に、選手は元より指導者も大変勉強になった大会であった。また、第1回である記念すべき大会で個人総合チャンピオンを出せたのは、体操協会を始め全国の諸先生方のご指導があったからこそ実現できた勝利だと思います。あらためてお礼と感謝を申し上げる次第です。