第26回ユニバーシアード体操男子団体現地レポート
男子の参加国は、女子と違って非常に多く、5班に分かれて26カ国が団体戦を争った。各国とも世界選手権などで見る顔ぶれは非常に少なく、それだけに蓋を開けてみないと優勝争いが分からないような状態であった。女子同様、最終の第5班に優勝争いをすると思われるチームが固まった。
日本は跳馬からのスタート。全員がドリッグスを跳んだが、山本(翔)が着地をほぼ止めてチームにいい流れを作った。北條は左に大きく動き、マットも出てしまったが大過失までいかず、続く瀬島もうまくまとめ、最後の山本(雅)はライン減点があったものの跳躍自体はいい出来で、得点の出やすい跳馬で一気に他国をリードした。対抗馬となるであろう中国はつり輪からであったが、着地で大きく動いたり、力技で実施減点の多い演技であったり、思うように得点を稼げず、日本に大きく水を開けられてしまった。他国も得点が伸びない中、ロンドン世界選手権のメダリストであるKOCZI率いるルーマニアが、ゆかでいい点数を重ねて日本についで2位につけた。
続く第2ローテーション、平行棒では瀬島が倒立で前に1歩動く減点があったものの、山本(翔)が着地を止める等、全体的に非常に安定した演技で高得点を重ね、全員が15点を出した。一方、中国は日本のように跳馬で得点を稼いでおきたいところであったが、WANGがドリッグスでしりもち、YANGはロペスで手を着いてしまう大過失とミスが連続してしまい、日本を追い上げるには不十分な点に留まってしまった。しかし、この時点で中国は2位に上がって、第3班で演技を終えているカナダと共に韓国、ロシアが無難に点を出して3位争いをリード。
第3ローテーションでは、日本は鉄棒でコールマンの実施が鉄棒に近かったり、着地が前に1歩動いたりと、完璧な実施とまではいかなかったが、全員ノーミスで、最後の石川はこの種目唯一の15点台(15.200)を出した。しかし、日本の得点を大きく上回ったのが平行棒の中国。この種目の世界チャンピオンのWANGが圧巻の演技で16.100をマークし、他の選手もうまくまとめて15点前後を出し、日本との差を2.80に縮めた。この班で中国の下に入ってきたのはフランス。得意種目の跳馬でRAYEPIN、AIT SAIDがDスコア7.0のルユーフーで高得点を上げた。
第4ローテーション、ここで一つ大きな山が来た。予想通り日本対中国の争いの様相の中、最初の瀬島が終末技の後方3回ひねりで前に大きく動いてしまうが、山本(翔)、北條がきれいにまとめた。石川が最初の屈身アラビアン2回宙でしりもちを着いてしまう大過失。しかし、最初の3人でトップ3は合計45点以上となり、合計得点では種目別1位となる高得点を挙げた。中国は一人目のCHENGが着地を止める素晴らしい出来で、二人目のYANGの演技。日本のゆかを見ていたため、横目で見る状態であったが、演技は問題ないように思えた。しかし、ここでかなりの採点時間を待つことになった。今日は採点が長引くシーンは多かったが、恐らく今日最高の待ち時間。次の選手がかわいそうになるほどであった。何分くらい待ったであろうか、出てきた得点は何と0点!観客も何があったのか理解できない反応であった。もしかしたら主審のGOサインの前に演技を開始してしまったのかもしれない。理由は分からなかったが、とにかくこの後の選手は一切油断できない状態で演技をしなければいけなかった。しかし、LIU、CHENの二人は全く動揺せず、二人とも15点以上をマークし、何とか2位をキープした。そして、フランスを上回り3位に入ってきたのが、得意の跳馬の演技となったルーマニア。KOCZIは全種目で最高得点の16.550をマークした。
第5ローテーションは日本にとって鬼門になるかもしれないあん馬。ここでも選手は素晴らしい演技を披露した。瀬島、山本(雅)、山本(翔)と3人が不安箇所を全く見せずにノーミスの演技。しかし、最後の石川は二度落下してしまう大過失。それでも、最初の三人でそのミスをカバーする形となり、この種目を何とか乗り切った。一方の中国。CHENGが終末技の後方宙3回ひねりで手を着く大過失、更にYAMGも同じく終末技のかかえ込み月面で手を着いてしまい、最後のCHENは一本目のシリーズを行った段階で演技を終了。大過失のあった得点が二つとも入ることになった。それでも、得点として中国が日本との差を縮め、その差が1.50となって最終種目に優勝争いがもつれ込む形となった。一方の3位争い。ルーマニアが抜け出し、あん馬で得点が伸びなかったものの、フランスを4点上回った。
いよいよ最終ローテーション、日本はつり輪。優勝争いのプレッシャーの中、そして最終種目ということで疲れの出やすい中、ミスが出にくい種目とはいえ、決して油断の出来ない状況。しかし、まず瀬島が着地を見事に止めてチームに大きな波を呼び寄せた。そして北條、山本(翔)、山本(雅)と、全く不安要素を見せない素晴らしい演技を見せてくれて、ゆかに続き種目別合計で1位となった。この演技で日本は優勝をほぼ確定したといってもいい。一方中国は一人目のWANGが落下、3人目のYANGも交差に入るところであん馬に乗ってしまう大過失。その悪い流れの中演技した最後のCHENも落下。今日の中国を象徴する不安定な演技が続いてしまった。この中国に迫るか注目されたルーマニアは、鉄棒で思うように点を伸ばすことが出来ず、この結果、日本が逃げ切りの優勝、2位中国、3位ルーマニアという結果になった。日本はこれで4連覇を達成し、更に男女アベック優勝の快挙を成し遂げた。
中国はWANGこそいるものの、世界的に無名な選手ばかりで、日本も世界選手権代表が不在で、過去に大きな国際舞台の経験のないメンバーばかりという構成。こうしたメンバーでの争いで、日本は層の厚さを見せ付けたといえよう。特にライバル国の地元中国メディアが「このメンバーで世界選手権に出る選手はいないのか?」と質問してくるほど、今回のメンバーは十分な質の演技を見せてくれた。結果的に地元中国のミスの多さも目立ったが、中国に対する大歓声が聞こえる中、選手たちは非常に落ち着いて、自分たちの演技をしてくれた。「日本は強い」という印象を持たせた選手たちの功績を大いに称えたい。
ところで、昨日もそうであったが、今回感じているのは中国の観衆のマナーの向上。過去の中国での大会ではその悪さが際立っていたときもあったが、今回は中国には当然ながら、他国の選手に対して、特に日本選手に対しても、いい演技に対しては惜しみなく拍手、声援を送り、更に落下などがあっても励ましの拍手で演技再開の選手を見守るなど、好感を持てるものとなっている。中にはまだ朝の班のときなどは失敗演技に対して拍手や笑い声が聞こえることもあったが、夜になるにつれてその傾向は全く無くなった。国に捉われず、純粋に体操を楽しんで見てくれている・・・そんな印象を持たずにはいられなかった。