第31回オリンピック競技大会テストイベント報告

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・期日    2016年4月12日(火)-4日21日(木)
・開催地   ブラジル/リオデジャネイロ
・競技会場  Rio Olympic Arena
・練習会場  Carioca Arena 1
・選手団7名(選手1名 役員6名)
選手:吉岡知紘(セントラルスポーツ)
役員:水鳥寿思,小林直行,村上拓,平瀬戸龍二,竹内輝明,高橋孝徳
・競技方法  
MAG2013-2016採点規則(MAGニュースレター30番を含む)
・大会器具
ゆか GYMNOVA
ゆか以外5種目 SPIETH
・スケジュール
4月12日(火)日本出発
4月13日(水)現地到着
4月14日(木)ポディウムトレーニング
4月15日(金)練習会場トレーニング
4月16日(土)CⅠ予選
4月17日(日)練習会場トレーニング
4月18日(月)CⅢ決勝
4月19日(火)現地出発
4月20日(水)乗り継ぎ
4月21日(木)日本到着

■CⅠ予選(4月16日)
 予選は3班中1班であったため10時30分から行われた。種目はあん馬からスタートした。同組にはイギリスとコロンビアであったため、MIXグループのなかでも非常にレベルが高かった。
 1種目め あん馬 D5.7 E7.433 13.133
 1種目めの緊張感から力が入り旋回が普段のようにスムーズに回らなかった。2技目のフラップで大きくバランスを崩し技は成立したが落下してしまった。その後は立て直したがCの認定が見込まれたロスも実施しなかった。ポディウム練習や3分アップでは問題なかったため、気持ちの作り方の難しさを実感した。
 2種目め つり輪 D6.2 E8.3 14.500
 全体的に大きな減点もなく良い実施であった。十字倒立が少し高めになってしまったが、その他の力技はキメもよかった。着地もしっかりと止めることができた。Eスコアはややシビアな印象を受けた。
 3種目め 跳馬 D5.6 E9.066 14.666
 跳躍板に合わせることができずポディウム練習も含め一度もドゥリックスを実施することができていなかった。本番では縦回転がやや不足し着地は斜め後ろに動いてしまったがなんとか成功させることができた。跳躍板のハードが硬すぎるようであった。
 4種目め 平行棒 D6.3 E8.366 14.666
 練習ではバーが滑ってしまうことが多く不安もあったが大きなミスをせずに実施することができた。屈身ベーレは抱え込みに変更した。チッペルトの処理でややもたついてしまった。準備時間は90秒程度確保され準備で慌てることはなかった。
 5種目め 鉄棒 D6.0 E7.533 13.533
 入りのコスミックひねりでうまくキャッチできなかったことから、アドラーハーフから伸身トカチェフが続かないなど全体的にリズムに乗りきれないなかなんとか終末技前までたどり着いたと思ったときに大逆手エンド―からの持ちかえで持ち損ねてしまい停止してしまった。これまでミスをしたことがないという単純なミスであったが、器具のバネが硬かったことや5種目めで疲労などが影響している可能性があった。
 6種目め D6.4 E8.5 ライン減点0.1 14.800
 最終種目ということで前方2回半ひねりのけりが抜けてしまったと話していたが、ゆかが蹴りやすかったため実施としては問題なかった。後方1回半ひねり~前方2回ひねりで横にラインオーバーをしてしまったが、全体的にはまとめることができ8位で決勝に通過した。
予選総括
 長時間の移動と時差による疲労があるなか調整する時間もなく試合となってしまったため条件は良いとは言えないなかでの試合であった。しかし、本人の感覚としてはそういった外的要因よりも試合で良い演技をするための気持ちのコントロールが難しかったと話していた。特に1種目めは緊張して力が入ってしまい思うように旋回を回すことができなかったと話していた。また、試合時間は予定よりも早いローテーションになり、最終演技者であった平行棒から鉄棒に移動して演技をしなくてはいけない場面でミスが出てしまった。
 Eスコアは全体的に厳しい印象があった。特にていねいな体操と技を詰め込んだだけの演技とでは差をつけている印象があった。
 本日の行われた予選はリオ五輪最終予選でもあった。団体では2015世界選手権で9位-12位に入ったチームが順当に勝ち上がりオリンピックへの切符を手にした。種目別では跳馬が全体で6名しか実施せずに全員が決勝に通過するなど通常の国際大会ではあり得ない状況であったが、その他の種目については15点近くが通過ラインとなるなど、一定のレベルを保っている印象を受けた。なかでもウクライナのVERNIAEV選手は個人総合で92点台を獲得するなど高いレベルの演技を行っていた。

■決勝の様子
 吉岡選手はゆかの8位通過選手としてゆかに出場した。決勝はノーアップで行われた。オーダーは3番のため、直前までサブ会場でアップを行い競技に臨んだ。前述のとおりサブ会場と本会場のアクセスが良いため、サブ会場の招集から入場までが10分以内であった。種目別決勝は1日で全ての種目が実施された。オリンピックを意識してか3ブロックに分かれており、各ブロックが終了した後にブロックごとの本会場練習を行うことができた。そのため、後半種目であっても競技開始20分前まで本会場練習を行うことができた。特に第2ブロックは第1ブロックが予定よりも遅れたため本会場練習後、約5分で競技が始まった。
 決勝では予選のDスコアから引き上げてD6.6の演技構成で臨んだ。予選で行った演技の前方2回半ひねりの前に前方1回ひねりを行い、組み合わせ加点を獲得すると同時に技の難度を上げた。試合では初めて実施する演技構成であったが、最後までミスをすることなくやりきることができた。しかし、ノーアップということと初めての演技構成であったことが影響してか、第1,2コースともラインオーバーをしてしまい大きな減点となった。これが響いて5位という結果であった。ラインオーバーがなければ銀メダルであったことを考えると非常に悔やまれるが、D6.6の演技を行うことができたことは成果であったと言える。
 ゆかは全体的にDスコアが高い選手が少なく、2位の選手はD6.1であった。その他の種目はそれなりに力のある選手が出場していたが、跳馬は6名、ゆか、鉄棒は7名のみの演技となるなど、物足りない印象を受けた。女子でも同様のことがあったため、リオ五輪最終予選の対象が予選のみであったことが原因ではないかと思われた。

■採点傾向と海外選手の動向について
 今回、審判員はFIG指名と、チーム出場の国からは帯同審判が参加していた。日本からはFIGの指名により竹内輝明(審判委員会委員長)が参加し、あん馬D1を務めた。
 審判席は、各種目のポディウム周りに配置され、通例のセッティングであった。オリンピック本番も同様であり、グラスゴー方式(アリーナ側面から器械と同等もしくはやや高い位置に設置)ではないとのことであった。
 今回参加した審判員がオリンピックと全員が同じメンバーではないが、技の認定に関してはFIG技術委員が関与しているので、評価に大きな相違はないと思われる。
 全体的にDスコアに関して、認定するかどうか判断が分かれるような実施でも、大方認めていた印象であった。ただし、D審判と技術委員とで、認定結果に差異が出た場合、必ず技術委員長のSteven BUTCHER氏の確認をとる手順であり、最終判断は彼が下していた。これは問い合わせをした場合でも同様であった。
 ゆかでは、着地の安定さを評価に出していたようだが、種目別決勝で2位になったBEHAN Kieran選手(IRL)のタンブリングは、ジャンプ1/2ターンをして片膝をつくなど、確実に止める以外の方法で捌いており、減点が少ない評価を受けていた。巧みな捌きではあったものの、今後同様の捌きでも減点の対象にならないと断言できるものではなく、オリンピックまでの間にさらに分析が必要である。
 十字倒立での腕の開きが狭く、頭部が高い位置の実施については、減点があまりされていないように感じられた。他、全体的にコーナーでの体操的な動きで指先やつま先まで伸ばした姿勢を見せてはいるが、カクカクした動きで滑らかな表現が出来ていない所作が多く感じた、このような部分での表現もEスコアには影響が出てくる可能性があるので、充分注意が必要であろう。
 あん馬では、全体的に不認定になる失敗、大欠点、落下が多く散見された印象であった。Eスコアは旋回の大きさ、スピード、安定性がある演技が高い評価を得られるのは、いつも通りである。後半にスピードが落ちる、小さくなる旋回では、点数が伸びない。ポディウム下からの採点の場合、腰の高さがよく観察できるので、ここでの差も得点に反映されていると感じた。
 種目別優勝のSUN Wei選手(CHN)の逆セア倒立での逆セアへの仕掛けの部分で、腰が折れず脚も高い位置から捌いていたのは、日本の選手にも参考にして欲しい。
 つり輪では、地元ブラジルのZANETTI選手と昨年の世界選手権優勝のPETROUNIAS選手(GRE)の勝負に注目が集まった。ZANETTI選手は力技静止時にやや揺れる印象であったが、着地をしっかりと止めてきた。一方PETROUNIAS選手は力技での静止が安定していたが、着地で動いてしまう演技であった。ともにDスコア6.80のスコアであった。一方Eスコアは、決定点から察すると、採用された中間3つのE得点はZANETTI選手が9.10、9.10、9.00の平均で9.066。PETROUNIAS選手は9.10、9.00、9.00で平均9.033。一人の審判の判断がメダルの色を分けたことになる。その要因が何に起因するかは明確ではないが、着地の重要性が大事であることは改めて感じられた。
 跳馬では、演技前に跳越番号を表示担当者に伝えるように徹底されており、表示されない場合、演技直前にD審判から伝えるように指示が出されていた。
 種目別にエントリーしたのが6名のみであった。本大会に出場している選手の多くが最大の目的をオリンピック出場枠獲得であるため、致し方ない結果である。優勝は、VERNIAEV Oleg選手(UKR)で、1本目ドラグレスク、2本目ロペスであった。ロペスの実施は、膝のゆるみが目立ち、伸身とかかえ込みの中間のような姿勢であった。今回は高い得点を得ていたが、オリンピックで同様の採点にはなりにくい。日本選手には気を付けておいていただきたい。
 平行棒では、アップ時間を計時審判が、演技開始前の時間はD1審判によって計測されていた。アップ時間は随分と緩い計測をしていたが、選手は時間を常に意識して、アップに臨んでいた。演技開始前計測では、1番手の演技には1分10秒ほどの時間猶予が与えられ、選手名表示、開始合図が出されていた。ただし、こちらも明確な時間が設定されている様には感じられなかった。オリンピックでは、厳格な時間が設定される可能性もある。対応できるように準備は必要である。
 単棒におさまる技で静止時間が短かったり、角度が45度以上外れている実施も今回は認定されている傾向であった。ただし、相応の減点がE審判からされているのは感じられ、実施で差を付けている印象であった。
 鉄棒では、ひねり系の技への減点が実施すれば必ずついてくるといった感があり、演技構成がEスコアを左右する要因であることが伺える。種目別決勝で優勝したZONDAERLAND Epke選手(NED)は手放し技やひねり系での足割れの実施減点が以前より少なくなったと感じた。2位にはBRETSCHNNEIDER Andreas選手(GER)が入ったが、オリジナルのブレットシュナイダーを披露し、会場中から大きな拍手を浴びていた。
 今回、団体戦には昨年の世界選手権予選の8位から16位のチームが参加したが、そのうちドイツチームのチーム力、演技での勢いなどは、本来の実力を十分に発揮し、好感の持てる雰囲気を醸し出していた。各チームの総合力としては、現時点で日本が特段と意識を向ける必要はないが、個人総合では、VERNIAEV選手や、OROSCO John選手(USA)が出場していたため、動向を確認していった。VERNIAEV選手は、高いDスコアを維持しつつ全ての種目に臨んでいたが、安定性が欠けることが今回でも感じられた。種目別に全種目エントリーしたが、あん馬でフロップが分解、ウ・グォニアン後で落下、つり輪では後半部分のホンマ十字やアザリアンなどが時間不足や角度の逸脱、倒立でも不安定な揺れが見られた。鉄棒ではアドラー1回ひねりで落下をしていた。印象としては、高いDスコアではあるものの、安定して演技を通す体力面に不安があるのではないかと思われた。これが改善されれば、個人総合でのメダル争いに名乗りを上げる存在であることは間違いなく、オリンピックまでの動向を注視していきたい存在である。なお、平行棒では、マクーツ(E)を外しピータース(D)を実施していたため、昨年よりも0.1低いDスコアであった。今後、再度Dスコア上げるかは、今後の出場大会での継続的な視察が必要である。
 一方、OROSCO選手は、事前の会場を知ることが目的であるかのような、演技であった。結果的には3位に位置付けたが、最終種目の跳馬の前で、順位をオーロラビジョンで確認した後、価値点を下げた実施をしており、情報収集が優先された感じであった。
 その他、ブラジルでの観客の雰囲気について気が付いた点があった。選手が高難度技に挑むとき、観客が選手に集中させてあげたいと思う状況で、日常、彼らが静かにさせたいときに発する「シッー!」という音を発し、騒がしい会場を静かにさせる行動が幾度となくみられた。特にブラジル選手の時に多く、観客が選手の演技をよく知っていること、選手への配慮を気遣う意識があるのだと感心した。また、素晴らしい演技には、惜しみない拍手、声援が送られ、観客を味方につけることができれば、気持ちよく演技をさせてくれる土地柄であるとの印象であった。

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