2017ボローニンカップ報告

報告者:日本体操協会

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■選手団
監督:田野辺満(ジュニア強化部長、鯖江高校)
コーチ:小倉雅昭(ジュニア強化コーチ、四天王寺スポーツクラブ)
トレーナー:室井聖史(船橋整形外科)
審判:吉田義経(日本体操協会審判部)
選手:金子和輝(ジュニア強化選手、埼玉栄高校3年)、大久保圭太郎(ジュニア強化選手、鯖江高校3年)、中山怜(ジュニア強化選手、鯖江高校2年)、日高大輝(ジュニア強化選手、四天王寺スポーツクラブ中学3年)
■派遣先 ロシア・モスクワ 競技会場:オリンピスキー
■成果
【参加国・地域数、チーム数、参加人数】
男子は25か国より80名程度の選手が出場した
【競技会に関する報告】
■大会概要
ボローニンカップは、ロシア体操協会・ディナモ体操クラブが運営を行いFIG公認イベントとして毎年開催されている。オリンピック・世界選手権出場者が数多く参加するレベルの高い大会となっている。今年はヨーロッパを中心に25か国が参加し、男女ジュニア・シニアのカテゴリーに分かれて競技が行わてた。会場はオリンピスキーアリーナの1/4のスペースで行われたが、それでも十分に広い競技場であった。
■大会レポート
□12/16 (土)出国
成田空港から約10時間のフライト経て、現地時間18:00頃にモスクワ空港に到着した。入国審査やスーツケース、送迎バス等のトラブルもなく順調にホテルまで到着した。
ホテルは小規模のビジネスホテル(Hotel Metalluig・メタルーグ)がオフィシャルホテルとなっていて全選手団が宿泊した。フロントが狭く受付の対応などが悪いため、テェックイン等でいつも混雑していた。ホテル周辺は閑散としていたが、徒歩1分圏内にスーパーマーケットが2件あり、補助食事や飲料水の確保には困らない環境であった。
ロシアでの通信環境であるが、今年から特定のアプリに関する使用制限が設けられたため、多くの時間帯でLINEアプリが使えなかった。EメールやLINE以外のアプリケーションを活用して情報環境を確保したが、ホテルのフリーWIFIも混雑時は繋がらない状況であった。

□12/17(日)
練習会場での練習
この日は大会のオフィシャル練習日ではないため、オリンピスキー内のディナモ体操クラブの仮体育館で練習を行った。器具はGYMNOVA製であった。14時まで体の調子を確認しながら6種目を入念に確認した。他国の選手は練習していなかったため、自分たちのペースで練習できた。初めての国際大会となる中山、金子も非常に落ち着いた雰囲気で調子の良さが感じられた。大久保、日高も初日から非常に良い練習を行っていたが、ゆかの練習中に大久保が右足首の捻挫をしてしまった。室井トレーナーによる応急処置を行ったが腫れと軽い内出血が見られたため、2日後の大会への出場が危ぶまれた。

□12/18(月)
本会場での練習
8時のバスで会場に移動した。バスは約1時間ごとに準備されていた。
本会場の器具はスピース製であったが、実施要項にはジムノバ製と記載されていた。本会場練習の時間はジュニアが11:00?13:00の後、オープニングセレモニー、女子シニアの練習を挟み18:00?20:00がシニアの練習時間であった。ジュニアの練習は20分のローテーション練習であり、おおむねローテーション時間は守られていた。しかし、シニアの練習も20分ローテーションで行っていたが、3種目目の練習が始まった頃に練習時間の変更が通達された。会場の照明が19:00で消灯になるため練習時間が60分に短縮され、残りの60分を翌日の朝9:00~10:00に確保するとの決定であった。日本の大会運営では考えられない変更であった。
選手のコンディションは昨日以上に好調であり、ジュニア選手は続行練習を中心に順調に行っていた。金子も好調であったが、大久保は着地やゆか、跳馬の練習を行うまでは回復できなかった。

□12/19(火)
ジュニア個人総合・種目別予選
今年は本会場練習がなくなり、サブ会場練習(ディナモ)のみに変更となった。また、男女同時進行に変更されたが、ゆかフロアーが1面しかないため採点間に男女交互に演技をするという変更的な進行であった。ローテーションは8人を前半・後半に分け、2分アップ⇒前半演技、2分アップ⇒後半演技という流れであった。会場は寒く選手たちは演技直前までベンチコートに手袋着用という厳しい条件であった。3時間30分の長い競技時間となり集中力を維持することが重要であった。
海外選手は、アップ不足や寒さ、集中力の欠如からか、失敗する選手や演技をあきらめしまう様な落下が多く見られた。開催国のロシア選手は数多く出場し、練習では素晴らしい体操を見せていたが失敗が多く続行力に対する弱さを感じた。しかし、つり輪の力技や倒立の裁き、姿勢の美しさや基本技術の高さは素晴らしく、今後の伸びしろが日本にとって脅威になると感じた。
【第1ローテーション】跳馬
中山:アカピアンで着地を止める (13.40 4.8-8.60)
日高:伸身カサマツ着地が後ろに1歩 (12.50 4.0-8.50)
【第2ローテーション】平行棒
中山:棒下倒立、バブサー、チッペルト、ヒーリー、屈身ダブル (13.70 4.9-8.80)
日高:棒下倒立、バブサー、チッペルト、ツイスト、屈身ダブル (13.25 4.8-8.45)
両選手とも素晴らしい実施であった。中山は初めてバブサーに挑戦して完璧に成功させた
【第3ローテーション】鉄棒
中山:ヤマワキ、アドラー1/2、ホップ、シートホップ1/2、アドラー、伸身ルドルフ (13.00 4.7-8.30)
日高:ヤマワキ、アドラー1/2、シート1/2、アドラー、伸身サルト (12.90 4.3-8.60)
落ち着いた演技で3種目を終了。日高のひねり技の実施はすばらしかった。
【第4ローテーション】ゆか
中山:前ダブル、前1/1-前2/1、後5/2-前伸身、後2/1、後3/1 (13.35 4.8-8.55)
日高:前伸身-前2/2、後ダブル、後3/1、後2/1、後5/2 (13.00 4.5-8.50)
本会場練習では器具調整しきれていない種目であったが、両選手とも無難に演技をまとめた。中山は全体で1位の得点であった。
【第5ローテーション】あん馬
中山:バックセア倒立、ループ旋回、Dフロップ、前移動(落下)、後移動、D倒立下り (11.45 4.4-7.05)
日高:バックセア倒立、Dフロップ、後移動、前移動、D倒立下り(13.20 4.5-8.70)
これまでトップの中山が惜しくも落下。日高はスピードのある雄大な旋回で成功させ、この種目1位の演技を行った。
【第6ローテーション】つり輪
中山:け上がり、開脚上水平、後車輪、前車輪、ジョナサン、ヤマワキ、伸身サルト (12.60 4.3-8.30)
日高:振開脚上水平、後車輪、前車輪、ジョナサン、ヤマワキ、伸身サルト (12.85 4.4-8.45)
日高は着地を決めるなど、最終種目も堅実に演技を行い1日目の演技が終了した。

シニア団体・個人総合・種目別予選
ジュニア同様に本会場練習がなくなった。サブ会場はディナモが公式会場であるが、同施設内(ディナモの向かい側)にあるオリンピスキーのクラブ体育館(器具はスピースでピット常設)でロシアなどが練習を行っていたため、日本もそこで練習を行った。
競技進行もジュニア同様であった。女子の入場が男子の2種目目の途中からと重なり演技直前に女子のゆかの2分アップが突然入った。男子選手のなかには演技を待たされる場面が見られた。
会場は徐々に暖房が効き始めたため寒さは感じなくなった。
海外選手は、アップ不足や寒さ、集中力の欠如からか、失敗する選手や演技をあきらめしまう様な落下が多く見られた。開催国のロシア選手は数多く出場していた。練習では素晴らしい体操を見せていたが失敗が多く続行力に対する弱さを感じた。しかし、つり輪の力技や倒立の裁き、姿勢の美しさや各種目での基本技術の高さは素晴らしく、今後の伸びしろが日本にとって脅威であると感じた。
【第1ローテーション】鉄棒
金子:ヤマワキ、アドラー1/2、伸トカチェフ、トカチェフ、ホップ、アドラー、伸身ルドルフ (12.90 5.0-7.90)
大久保:ヤマワキ1/2、アドラー1/2、シート1/2、ヤマワキ、ホップ、伸身サルト (13.20 4.9-8.30)
金子はひねり技の減点からかEスコアが伸びなかった。大久保は着地も我慢してまとめる事ができた。両選手とも自分の力を出し切る演技であった。
【第2ローテーション】ゆか
金子:前ダブル1/2、後3/2-前5/2、後5/2-前2/1、プロペラ、後3/1 (14.35 6.0-8.35)
大久保:後5/2、後2/1、前2/1、後1/1、プロペラ、十字倒立、後3/1 (12.80 4.6-8.50,ND0.3)
金子は着地まで狙った素晴らしい実施で高得点を獲得した。大久保は今できる演技構成を考えて最低限の得点を確保した。(ゆかの2回宙返りの実施なし)
【第3ローテーション】あん馬
金子:バックセア倒立、開脚横移動、開脚前移動、開脚後移動、D倒立下り (12.85 5.0-7.85)
大久保:バックセア倒立、前移動とび、後移動、セアとび1/2、D倒立下り(12.10 4.6-7.50)
金子は途中の開脚旋回でバランスを崩すが気合で立て直した。大久保は手首痛のため演技構成を落として演技をまとめた。この種目はEスコアが思ったように伸びなかった。おそらく旋回の大きさ不足や姿勢、倒立技の実施などが減点になっているのではと考えられた。
【第4ローテーション】つり輪
金子:中水平、ナカヤマ、開脚上水平、前後車輪、ジョナサン、ホンマ十字、ルドルフ(12.95 5.5-7.45)
大久保:振中水平、中水平、アザリア、後車輪、ジョナサン、ホンマ十字、ルドルフ (13,30 5.7-7.60)
この種目は中水平の肩の高さや倒立の裁き等で外国の選手よりかなり見劣りした。ロシアの4~5選手(代表選手含む)は、後転中水平、後け上がり中水平を実施していた。手首を返しながら輪の下の方に肩が収まり完全に水平の実施であった。Dスコアが6.1、Eスコアが8.5前後を獲得していたため、日本選手の7点台中盤のEスコアは当然の結果であった。
【第5ローテーション】跳馬
金子:ドリックスで着地は大きく前に1歩 (13.60 5.2-8.40)
大久保:アカピアンで着地を止める (13.40 4.8-8.60)
金子は着地で膝がぬけそうになるが踏ん張ることができた。大久保はゆか同様にできる範囲の最大の得点を獲得した。
【第6ローテーション】平行棒
金子:ホンマ、ヒーリー、棒下倒立、バブサー、チッペルト、ツイスト、前ダブル1/2 (13.80 5.5-8.30)
大久保:棒下倒立、車輪、車輪ライヘルト、ハラダ、開脚前宙返り、屈身ダブル(転倒) (12,55 5.3-7.25)
金子が最終種目の疲労もあり、開脚前宙を実施せずに着地をまとめた。大久保は大変良い実施であったが、着地で足を気にした結果両手を付いてしまった。

□12/20(水)
ジュニア・シニア種目別決勝
9:30-    バス出発
10:00-10:50 本会場練習
11:00-16:30 競技
17:00- 表彰式
種目別は男女シニアとジュニアが同時進行で行われた。ジュニアは多くの種目に出場、シニアは金子が5種目、大久保が3種目の出場となった。スタートリストはホテルに掲示されたが、ローテーション方法は当日の会場入り後の確認となった。
シニアはゆか、ジュニアはあん馬からの正ローテーションであり、この日も非常に長い競技時間で集中力を保つのが大変であった。
【ジュニアゆか】
日高:着地こそ決まらなかったが力を出し切る(13.00 4.5-8.50)3位
中山:着地減点も最小限に抑え素晴らしい実施(13.50 4.8-8.70)優勝
【シニアゆか】
金子:Dスコアを落として無難に演技をまとめたがEスコアが伸びず(13.40 5.6-7.80)4位
ロシア選手が3回宙返り、伸身サルトなど高難度の技を着地までまとめていた
【ジュニアあん馬】
日高:予選以上にスピードのある旋回でほぼ完璧の演技(13.30 4.5-8.80)優勝
【シニアあん馬】
金子:予選の疲労もありDスコアを下げて演技をまとめた(12.95 4.7-8.25)4位
あん馬はロシア選手を含め目立った実施(高いDスコア)は見られなかった。
【ジュニアつり輪】
日高:予選同様に安定した実施であった(12.75 4.4-8.35)4位
中山:予選よりDスコアを上げたが上水平の秒数が短くなった(12.20 4.5-7.7)5位
【シニアつり輪】
大久保:予選より実施は良かったがEスコアを下げた(13.05 5.7-7.45)6位
ロシア選手2人は圧倒的な強さ。日本のつり輪強化の遅れを感じる結果となった。
【シニア跳馬】
金子:アカピアン、屈身前宙ハーフを実施(13.60 4.8-8.8)(11.25 3.6-7.65)7位
金子は少しでも国際経験をしたいとの希望で跳馬にも出場した。
【ジュニア平行棒】
日高:多少手ずらしがあったが美しい演技を行った(13.30 4.8-8.5)2位
中山:予選以上の実施で着地も小さく1歩(13.80 4.9-8.9)優勝
この種目は日本選手2名の綺麗で正確な実施が評価された。
【シニア平行棒】
金子:途中の力倒立の秒数不足以外は落ち着いた演技であった(13.50 5.5-8.0)5位
【ジュニア鉄棒】
日高:アドラー1/2、シート1/2の角度減点も少なく完璧な演技(13.25 4.3-8.95)優勝
中山:安定した演技で着地が前に1歩(13.05 4.7-8.35)3位
【シニア鉄棒】
金子:最終種目まで集中した演技でミスなく大会を終えた(13.00 4.9-8.1)6位
大久保:アドラー1/1ひねりを加えた。(13.45 5.3-8.15)3位
ジュニアでは、中山と日高が各2種目の金メダルを獲得した。シニアでは最後に大久保が鉄棒で銅メダルを獲得することができた。

【最後に】
今大会に参加した一番の成果は、初めての国際大会である選手を含め失敗が少なかったことである。慣れない生活環境や時差、言葉の壁、器具の違いなどにも左右されず自分のパフォーマンスを発揮できた事は頼もしい限りであった。今後、日本代表として国際大会に参加する際には大きな自信となるであろう。また、直前にけがをした大久保には今回の悔しさをバネにさらに奮起してほしいと思う。
大会参加にあたりご尽力いただいた日本スポーツ振興センター、JOC、日本体操協会をはじめ、各関係者の皆様に心より感謝を申し上げ本大会の報告とさせて頂きます。
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