第72回全日本体操個人総合選手権女子決勝

報告者:広報委員会 明名亜希子

今回で全日本個人総合3連覇の村上茉愛選手(日本体育大学)は、もう女王の貫録さえ見てとれる試合運びをした。出だしの跳馬でユルチェンコ2回ひねりの着地をしっかりと決めてEスコアを予選より0.1上げて9.4を叩き出した。

段違い平行棒ではマロニーからのギンガーでほんの少し近付いたがリズムを乱す事なく高さ、安定性共に上がってきた閉脚の屈身イエガー、開脚イエガーをしっかりと決め、最後のムーンサルトは小さくホップ。

しかし次の平均台で少し硬さが見られた。屈身前宙、バク転スワンをいつもより丁寧に決めにいくと、交差輪とびの姿勢が少し甘く入る。側宙でふらつくが、助走1歩からのかかえ込み前宙~左右開脚ジャンプ~前後開脚ジャンプはしっかりと繋げる。交差輪とびも開脚不足が見られた。その後の片足伸身前宙からの交差ジャンプタイミングが合わずに行わず、屈身ダブル下りの着地はまとめる。こうやってふらつきがリズムの乱れがあっても落下をしなくなった所が今年の村上選手の強さだと言える。

ここまで来たらもう勝負あり。最後のゆかは最初のターンで少しバランスをくずしたものの、ほぼすべての着地を止めて、満員の東京体育館から大喝采を浴びる。2位に3.502点差をつけている村上選手。今年も世界選手権代表切符は目の前か。

 

その村上選手に3.502差で2位につけているのは寺本明日香選手(ミキハウス/レジックSP)。3月に右足首の捻挫があり、それを押しての出場だったが、跳馬ではチュソビチナ(転回~伸身前宙1回半ひねり)で攻める。少し腰折れが目立つ実施になってしまったが着地マットを踏みしめるように着地し14.266を出す。

段違い平行棒はいつも通り危なげなく通しきり、平均台へ。

エアリアル系の技からのジャンプの組み合わせを抜いたり、終末技3回ひねりを2回半ひねりにするなど、少し難度を落としての構成できっちりと通しきる。こういう強さは寺本選手の強み。最後のゆかは新しい曲と振り付けで浮足水平2回ターンを素晴らしい実施で決め、テンポ~テンポ~バク転~3回ひねりも、足の痛みをまったく感じさせない動きをしていたが、最後の屈身ダブルで蹴りがまったくっ入らず後ろへ転倒し、ラインオーバー。これには会場全体が悲鳴に近い声を上げた。本人曰く、「もう、脚が限界だった」と、試合後足首はもちろん、それをカバーして負担がかかっていたふくらはぎや前脛骨筋を入念にアイシング、マッサージしていた。悔しそうにはしていたが、暗い表情はなく、すでに気持ちの整理はできていたようだった。

 

1.232差で寺本選手を追うのは初の世界選手権代表入りを狙う畠田瞳選手(セントラル目黒/日体荏原)。跳馬では高さのある伸身のツカハラ1回半ひねりを着地1歩でまとめる。得意の段違い平行棒では閉脚シュタルダー倒立1回ひねり+マロニーハーフ(E+E)や閉脚シュタルダー1/2ひねり+屈身イエガー(D+E)等、高難度の組み合わせ加点をとり、ムーンサルトおりまで迷いなく決める。

本人は苦手という平均台だが、しっかりと練習してきたのが見て取れる内容。非常に高さがあり、着地の姿勢も文句なしのかかえ込み前宙や側宙、横向きの前後開脚ジャンプ1/2ひねり(D難度。ダンス系のジャンプは台に対して横向きで行うことにより、縦向きで行うより難度が一つ高くなる)交差とび1/2ひねりは少し開脚不足か。最後の屈身ダブルは後ろへ1歩。

新しく曲・振付を変えたゆかでは以前とは雰囲気をガラッと変えた。足持ち2回ターンを正確に決め、ムーンサルトや2回半ひねり+前方1回ひねり(D+C)など、派手な技こそないが、一つ一つの減点を最小限に、丁寧にこなした。「ミスのない演技をし、3位以内に入る」という目標をしっかりと達成。

3位の畠田選手を1.634差で追うのは4位の杉原愛子選手(朝日生命)。段違い平行棒では最初の振り上げ倒立がうまく入らず、リズムを崩したまま飛んでしまったマロニーでストップ。本来はマロニーハーフを行う予定だったが対応しきれず一度バーから降りてしまった。その動揺が尾を引き、平均台でも落下があったが、自ら気合いを入れ直すように動き方、決め方を工夫しながら最後のゆかまで戦いぬいた。試合終了直後は涙を見せていた杉原選手だったが、体育館を出る頃には気持ちはもう切り替わっていたように見えた。

 

さらに1.833で5位につけているのは梶田凪選手(山梨ジュニア/甲斐清和高校)。跳馬のユルチェンコ2回ひねりはひねり不足で腰折れも大きい実施に。予選で失敗した段違い平行棒ではG難度のフットからの伸身トカチェフ、パクも決めて通しきった。平均台もなんとかやり切ったが点数がはまり伸びず。序盤からあまり本調子ではなさそうに見えていたが、それは最後のゆかで出てしまい、2本前の2回半ひねり+前方1回ひねりのところが最初のひねりで分解してしまい、2回ひねりだけになってしまう。梶田選手も試合後涙を見せた。

 

跳馬とゆかで世界レベルの演技を見せた昨年の世界選手権・リオ五輪代表で6位の宮川紗江選手(Enjoy Gymnastics Team)はもう少し段違い平行棒と平均台のEスコア対策が必要だという印象。

リオ五輪代表の7位内山由綺選手(早稲田大学/スマイル体操クラブ)の段違い平行棒は変わらず一級品。平均台とゆかが課題か。

中路紫帆選手(戸田市スポーツセンター/クラーク記念国際高校)はゆかでは素敵な表現力で観客を魅了したが、予選の平均台でのミスが響き現在8位。

 

NHK杯では今大会の予選・決勝の得点も含めたすべての合計がNHK杯の順位、世界選手権の選手選考に関わってくるので、1位独走態勢の村上選手以外は一つのミスも許されない状況が続く。