第57回NHK杯体操女子レポート

報告者:広報委員会 明名亜希子

4月27日~29日に行われた全日本選手権から3週間後に行われた第57回NHK杯。今回も圧倒的な強さを見せ、NHK杯、世界選手権の代表候補の座を勝ち取ったのは村上茉愛選手(日本体育大学)。1種目めの跳馬から着地まで完璧に決める余裕のあるユルチェンコ2回ひねりを実施。この跳躍を見た瞬間、「今日はすべての着地まで止めに行く」という、他の選手ではなく、自分の中での挑戦という力強い姿勢が感じ取れた。

段違い平行棒ではマロニーからのギンガーや、閉脚イエガー、開脚イエガー等、手離し系の技はしっかりと決め、課題のムーンサルト下りも全日本2日間と合わせた3日間の中では一番良い実施で着地までまとめたが、ところどころ振り上げ倒立やひねり系の技で倒立姿勢が垂直から外れるところが目立った。(振り上げ倒立は倒立姿勢が垂直より30°より下へ外れるとEスコア0.1の減点、45°より下へ外れると0.3の減点。倒立局面でひねりを伴う技では、ひねり終わりの倒立姿勢が垂直より10°よりも外れるとEスコア0.1の減点、30°より下へ外れると0.3の減点)。

平均台では全日本とはまたさらに構成を変えてきた。全日本で入れた前へ脚交差した前後開脚とび1/2ひねり(D難度)を抜いて、片足踏み切り前方開脚伸身宙返り(片足伸身前宙)~前へ脚交差した前後開脚とび~両足踏み切り前後開脚とび(D+C+B=加点0.2)と、やり慣れた技で組み合わせ加点をとる作戦。Dスコアを0.1下げてでもEスコアでの減点を抑えることで、結果得点が上がることを狙った構成だ。演技全体としてはスッキリしたように見え、かつ、村上選手本人が攻めた実施をしてきた印象だった。世界でも「壁」と言われている平均台のEスコア8.0以上を貪欲に狙う姿勢が見られた。

ゆかは、とにかく「着地」にこだわった演技を見せた。H難度のシリバスはいうまでもないが、豪快な伸身ダブルからの鹿ジャンプは、挑戦すること自体が非常に難しく、危険であることをここで言っておきたい。今回の実施は少し伸身ダブルの着地の後のとどまりが長かったので加点の承認は厳しかったかもしれないが、何よりも伸身ダブルが安定していなければならないこと、そして、そのF難度の技からジャンプができる強靭な身体が土台としてあること。世界で戦うにはその「強さ」を持ちつつ、4回ターンやひねり系のジャンプなどの正確性を極める繊細さが必要。特に村上選手は昨年の世界選手権を経て、その両面で日を追うごとにレベルアップしている様子がうかがえる。

2位で代表の座を掴んだのは怪我に苦しんできた寺本明日香選手(ミキハウス/レジックスポーツ)。全日本選手権では足首を痛めていて、やっとの思いで試合出場。ゆかの最後の屈身ダブルでゴロンと後ろに転倒してしまう、周囲も驚くようなミスをしてしまった。「足がもう、ダメだった。もたなかった」と本人も試合後言っていたが、今回は「やっと‟普通”に練習できるようになった」と坂本コーチも言っていた通り、前回の全日本選手権とは比べ物にならないぐらい、キレを戻していた。
跳馬のチュソビチナでは全日本決勝よりもかなり高い位置でひねりを終えての着地。

段違い平行棒は「いつも通り」、安定した実施でムーンサルトの着地まで危なげなく決めた。調子が良いなぁと見ていると、今度は平均台での落とし穴が。昨年の世界選手権でも落下のあった後転とび~後転とび~片足後方伸身宙返り(B+B+C=加点0.1)の組み合わせでの落下。少し宙返りにいくのを急いでしまったように見えたが着台した時には歪んでしまっていた。

しかし、ただでは転ばないのが寺本選手。ゆかの整列の時までは本人も「私あの時すごい顔してませんでした?」と後に言うほど、動揺が隠せなかったそうだが、3分間のウォーミングアップでしっかりとやるべき事を確認、力強いタンブリングと最近とても上手くなった動き(踊り)でしっかりと通しきった。特に最後の屈身ダブルを丁寧に着地までもっていっていたのが印象的だった。

最終的にはしっかりと結果を出し、2位で世界選手権代表候補入りを果たした寺本選手、本当に強い。このメンタル面やチームを引っ張る力は日本チームにはなくてはならない存在と言える。

3位に食い込んだのは代表に入れば初となる畠田瞳選手(セントラル目黒/日体荏原高校)。とにかく「気持ち」が強かった!これまでは「淡々と」試合をこなす選手という印象であったが、今回はとにかく「代表入りしたい!」という想いと、そのために(練習を)「やってきた!」「勝負しにきたんだ」という気迫あふれる演技がとても印象的だった。

跳馬の伸身ツカハラ1回半ひねりは伸身姿勢がとても美しく、着地姿勢も頭が高い位置でEスコアをしっかり稼ぎ、得意の段違い平行棒では振り上げ倒立などの倒立姿勢を一つ一つ、また一つと積み重ねていくようにしっかりと倒立に「はめに」いっていた。

試合本番の緊張した舞台でそっとおさめにいくのではなく、勢いで倒立に突き刺す様に「はめに」いくことができるのは、相当な練習の量と質の積み上げの賜物と言える。畠田選手がどれだけの準備をしてきたかがあの1本の段違い平行棒の演技で見て取ることができた。

次の平均台では少し緊張した表情を見せたがしっかりと、こちらも一つ一つを積み重ねるように実施して乗せていき、演技後に母親であり、コーチである友紀子さんと抱き合って喜んだ。ゆかでは今シーズンから新しくした曲と振り付けで顔の表情にまでこだわった演技を見せた。ところどころで審判に見せる笑顔や挑むような表情など、アクロバットやダンス系の技ではないところまでしっかりと練習を詰めてやってきたなという印象。もちろん、アクロバットでは着地の姿勢を少しでも高いところで止めにいく、ダンス系要素もしっかりと開脚度を見せ、しっかりとひねりきる。細かい0.1を少しずつ拾いながら代表候補入りを果たした。最後のゆかの演技後に友紀子コーチが涙していたのもとても印象的だった。

 

4位には全日本選手権に続き、段違い平行棒での落下や平均台、ゆかでの細かいミスが目立ってしまった杉原愛子選手(朝日生命)、5位には段違い平行棒の豪快なフットからの伸身トカチェフや、ゆかでの美しい足持ち3回ターンが持ち味で、こちらも代表に入れば初となる梶田凪選手(山梨ジュニア/甲斐清和高校)、6位には苦手の段違い平行棒、平均台では踏ん張って、今までで一番良い出来の演技を見せたが、足首の痛みが原因で得意のゆかで痛恨のミスが出てしまった宮川紗江選手(株式会社Rainbow)が代表候補入りした。

世界選手権代表は今後の合宿などを経て、強化本部により決定される。