世界体操リバプール,新生体操ニッポンが好スタート

報告者:遠藤幸一

パリ五輪の予選を兼ねた第51回世界体操競技選手権大会がイギリス・リバプールで開幕した。東京五輪が1年延期となったことで今までと異なるサイクルとなったが,世界中の体操界にとって,パリ五輪で適用される新しい採点ルールになって初めての世界選手権は,2024年を占う意味でも各国が注目する重要な大会だ。

大会はすでに3日が経過し,男女予選が終了した。団体予選は男子が1位,女子が5位で予選を通過することになり,好スタートをきった。何よりも,団体予選通過が新生体操ニッポンに与える影響は非常に大きい。その理由は大きく2つある。

1つ目は,この段階で,2023年に開催される第52回世界選手権(ベルギー・アントワープ)の団体出場権を獲得した点だ。ここでその出場権を失うと2023年のアジア選手権で権利獲得のための戦いを強いられることとなる。その場合,その年の日本代表選考競技会と重なる可能性が高く,代表選考方法を悩ますことになる。まさに今年(2022年),非常に悩んだことを考えるとプラス面だ。

2つ目は,決勝という舞台を経験する選手が全員ということ。個人総合や種目別の決勝については同国2名までという制限があるため,経験できない選手も出てしまう。しかし,団体決勝に残ったことで全員が特別な「決勝の舞台」を経験できることになった。これも新生体操ニッポンが日本の体操界に与える経験値として持ち帰る手土産として相当な価値がある。

とりわけ女子に関しては,まったく未知数の選手たちだったため,どのように転ぶのか関係者の私ですら戦前の予想がつかなかった。私自身,コロナの影響でナショナルトレーニングセンターへの出入りに制約があったことで選手たちの情報がほとんど体感としてなく,何よりも出発直前に今年(2022年)4月の全日本チャンピオンである笠原有彩(レジックスポーツ)を失ったことで団体決勝進出は厳しいとも感じていた。ある意味,今回はその私の本音をうれしく裏切ってくれた。

日本女子の強さとしてすべての演技で大過失がなかったことを世界中の関係者が口を揃えて言う。実際,決勝進出8チームにおける大過失を国際体操連盟の競技結果の上に赤丸で図に示してみた。また,ラインやタイム減点という罰則減点は黄色マーカーで示してみたが,日本の大過失がなかった点はひと際目立つ(裏を返せば周りの赤丸が消えれば1つにつき1点ほど上がることを考えると日本の立ち位置がおのずと見えてくるが)。

どんなに練習を積んできた選手でも本番に失敗してしまうことがある。あのキング内村航平でも華やかな栄光の中で,思い返せば大過失をいくつか出している。世界一練習している選手でさえ大過失を出してしまうのだから,チーム全員大過失なしという彼女たちが成しえたことは驚異的なことだ。駅伝や,これから始まるサッカーのワールドカップなどのチームスポーツにおいて,全員のコンディションを最高に持っていくことは至難の業であり,コンディショニングの研究者の永遠のテーマでもあり,彼女たちや強化本部内で得たものに興味もあるが,今はこれから始まる決勝の舞台での男女選手たちの躍動を改めて注目したい。

第51回世界体操競技選手権大会