世界体操リバプール,団体タイトルの重み

報告者:遠藤幸一

「団体金メダルの重みがさらに増した。それを目指し,獲得した時の気持ちを味わいたい。」

団体決勝を2位で終え,若きオリンピックチャンピオン橋本大輝(順天堂大学)はキング内村航平が辿ってきた団体タイトル獲得までの道のりを意識して次の目標をそう口にした。

そこで,改めて内村が歩んできた団体タイトル獲得の道のりを振り返ってみよう。

2010年世界選手権・ロッテルダム大会
 中国の2種目目のあん馬の終末技でYAN Mingyongが浮腰姿勢で停滞し,力で倒立に押し上げる難度で実施合わせて大きな過失を犯している。しかし,それ以外,目立ったミスはなかった。一方の日本は田中和仁が前方車輪1回ひねり大逆手で落下。大きなミスはともに1つずつだが,内村をみると,あん馬の交差倒立で前に手を一歩出していたり,鉄棒のアドラー1回ひねりでもどってしまうミスをしている。この時の中国との得点差は1.228。

2011年世界選手権・東京大会
 中国は4種目目の平行棒においてTENG Haibinが車輪ディアミドフで落下こそなかったがバランスを崩し停滞する明らかなミスがあったがそれ以外の大過失はなかった。一方,日本は,あん馬で小林研也が落下。最終種目の鉄棒では田中佑典がアドラーひねり~コバチで落下。さらに内村がコバチで落下。この時の中国との得点差は2.068。

2012年オリンピック・ロンドン大会
 中国は目立ったミスなし。予選でミスの多かった日本はつり輪スタート。2種目目の跳馬で山室光史が予定していたロペスを跳べずアカピアンになり着地で足を負傷する事態に。5種目目のゆかで田中和仁が後方宙2回半ひねり~前宙1回ひねりでよろけて左手で床を支えるミス。そして負傷した山室に代わって演技することになった田中和仁がフロップで落下。内村も終末技で大きく乱れ,一時は団体4位表示される事態となったが,得点照会(インクワイアリー)により2位となった。この時の中国との得点差は4.045。

2014年世界選手権・南寧大会
 中国は2種目目あん馬でDENG Shudiが下りにおいて停滞。さらに同選手は5種目目の平行棒のバブザーで完全にバーに接触する過失を犯している。一方の日本は大きなミスもなく,唯一,最終種目鉄棒で加藤凌平がアドラー1回ひねりで戻ってしまう程度。当時のグランディFIG会長がこの状況に対して苦言を呈することになったが,中国との得点差は0.100。

2015年世界選手権・グラスゴー大会
 中国は2種目目あん馬,XIAO Ruotengがブスナリで落下。それ以外は大きなミスがなかった。一方,日本は田中佑典が平行棒のシャルロで落下。次の鉄棒において同選手がカッシーナで落下してしまうが,全体を通して中国は中過失もあり,ようやく日本は団体優勝にたどり着いた。中国との得点差は+0.859。

2016年オリンピック・リオ・デジャネイロ大会
 中国は最初の種目ゆかでDENG Shudiが前宙1回半ひねりで手をつく過失。日本は最初の種目あん馬で山室光史がマジャールの途中で手を滑らせて落下。それ以外,大きなミスはなかったが,内村自身,鉄棒では予選でミスし,団体決勝でもアドラー1回ひねりでもどってしまうミスをしている。中国との得点差は+2.972。

こうして過去を振り返ってみると,結局は,失敗は出てしまうし,出たとしてもあきらめず,しっかりカバーできるだけの術があれば結果もついてくると改めて思う。

2001年から導入された団体決勝方式は,6-3-3制(6人のエントリー選手の中から各種目3選手が演技し,その3つの得点全てがチーム得点になる制度)から始まり,今や5-3-3制(オリンピック・東京大会は4-3-3だった)となり,オリンピック・パリ大会でも同制度が適用される。一部では団体戦廃止論(一人一人が演技する個人競技なのになぜ団体戦をしなければならないのか)もあるそうだが,やはり個人的に団体戦は外せない。

何よりも体操競技の根本は個人競技でありながら,団体戦によって選手やコーチらが大きな成長を遂げるからだ。他の選手とともに支え合って戦わなければならないならない状況は,選手たちに計り知れないプレッシャーを与える。そして克服した時には喜びを,失敗した時には悔しさを植え付ける。どちらの経験も人を強くし,体操競技の発展に結びつくと考えている。

現地11月2日の男子団体決勝をもってこの世界選手権でのチームの戦いは終わり,個人戦へと移行する。選手によっては色々な感情が芽生えていると思うが,この素晴らしい戦いを経験した体操ニッポンの選手たちにはその成長を国内に持ち帰り,しっかり多くに伝え,自らをさらに高めてほしい。そして個人総合,種目別の決勝に出場する選手たちには自身の成長したところを表現した戦いをリバプールの地でしっかりみせてほしい。

引き続き体操ニッポンの応援よろしくお願いします。

第51回世界体操競技選手権大会情報ページへ