【レポート】第63回全日本新体操選手権大会(男子)

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大会レポート 男子
(Photo By "Terumi Watanabe")
【個人】
代々木第一体育館は照明の構造上、投げ技において手具を光の中に見失いやすい体育館のひとつであるが個人は全体的に投げ技による直接的な落下が少なく昨年に比べ投げ技の熟練度の向上を感じた。
一方で、それらの投げ技や難度の高い技を成功させた直後の動きに普段では考えられないような躓く・手具を手から落とす等のミスが多く惜しいように感じられた。
個人の優勝は北村将嗣選手(花園大-4年生)
彼は既に大学一年生にして同大会で日本一を経験している。しかし昨年の全日本選手権大会では技術力・構成力共に1年の時よりも格段に熟練されていたにも関わらずノーミスで演技を通す事ができず優勝争いから遠ざかっていた。
今年は4年生 大学生活最後の年として昨年の結果を真摯に受け止め1から再スタートを切った。
チームのキャプテンを務めながら「周りへの感謝の気持ちを演技に」という想いで挑んだ本大会。彼らしい安定した演技が熟練した難度で展開され個人総合で見事1位に、2年連続で個人総合優勝の青森大学から王座を奪還した。
■北村将嗣選手
花園大学の監督として北村選手を指導する野田光太郎選手(KYOTO花園RGC)が2007年以来3年ぶりの復帰。本大会最高齢での出場であるが個人総合4位 種目別にも全種目出場するなど貫禄を見せ付ける。個人と言えども演技構成には大なり小なり流行というものがあるが、どの選手とも違う独特の動きで次の動作が予測できず良い意味で困惑する演技構成。特に視野外での手具操作が非常に得意な選手であり、失敗すれば大減点が免れない技を涼しい表情でやってのけた。
リングの転がしではラインぎりぎりへの転がしと投げたリングを後転しながら背中でキャッチするなど巧みな技で大いに会場をわかせた。
■野田光太郎選手
北村選手と同期で同じ花園大学の谷本竜也選手、クラブの演技は曲に「小さい秋見つけた」を使用。曲の緩急にあわせ、体の可動域限界まで活かした大きくそして深い動きをみせる。
■谷本竜也選手
谷本選手と同じ井原精研高校出身の大舌恭平選手(青森大学)、4種目でまったく異なる世界観の曲を個性豊かに演じわける。予選ではロープの落下のミスが響き個人総合は逃すものの、種目別決勝では3種目を獲る。特にクラブの演技ではブリッジから反転してクラブをフロアに叩き付ける2段ギメで学生生活最後の演技を会心の出来で飾る。
■大舌恭平選手
■個人総合 1位~4位
【団体】
団体は昨年に続き連覇を狙う青森大学が、同チームの特色であるストーリー性あふれる構成とミュージカルを彷彿とさせる多彩な表現力で手堅く連覇を達成
■青森大学
演技冒頭の第一タンブリングで外崎成仁選手(4年)しかできないダブルスワン(後方伸身2回宙返り)を決めると演技の最終局面でも組み技でリフトアップされた人間の股下をバク転で通過し後方2回宙返りを決めるという離れ業を成功させた。ルール上、宙返り転は1度しか行えないが足から着地する技においてはこの限りではない。ただし、2回転を回るだけの跳躍とその跳躍からの着地を整える力量が必要であり、1つの演技中に2回宙返りを2回行うというのは至難の業である。
加えてリフトアップの股下を通過してからの宙返りはリフトアップの成功が必須条件となり、リフトアップが遅れたり崩れてしまった場合、技が成立しなくなってしまう。
このような構成は同チームの場合、タンブリングだけでなく鹿倒立の部分においても同じ事が言える。倒立において倒立隊形の先頭の選手がフロア奥の角ギリギリの部分で倒立を行うのだがこれはバランスを崩した場合、倒立の落下だけでなくライン減点の可能性を含んでいる。仮に枠内に崩れたとしても直後の交差技が、倒立の成功を前提とした間合いとなっているため倒立成功の重要度が、通常よりも遥かに高くなる。
倒立に関していうと青森大学に限らず国士舘大学は倒立の伸びのタイミングに時間差を、福岡大学は倒立後の伸びの方向性に変化を、といった形で倒立に今までなかった変化をつけるチームが多く見られた。
花園大学が予選でのミスを修正し決勝ではノーミスの演技で青森大学に継ぐ2位。創部以来どうしても超えることのできなかった厚い厚い壁を越えた花園大学にとっては感慨深い銀メダルとなった。
今年の春にTBSにて放映された男子新体操をテーマにしたドラマ「タンブリング」。その舞台版で演技を行ったメンバーを軸に構成された社会人チーム「烏森RG」。メンバー各々の出身チームの特色ある演技を詰め込んだ構成と社会人ならではの熟練された演技で3位。これは2002年の彰浩R.G以来となる社会人チームのメダル獲得である。
■烏森RG
■小林工業・小林秀峰高等学校
【総括】
先に述べたドラマ「タンブリング」の影響もあってか会場は過去に例をみないほどの大入りとなった。男子新体操を初めて生で観戦する人達が多く、選手の技が決まるたびに会場からは大きな歓声と拍手がなりやまず選手にとっても非常に楽しく演技ができたのではないかと感じられた。
個人種目別の最終種目であるクラブの演技後、個人総合を競いあった選手がそろって観客席からの声援に応えている姿は非常に清々しいものであった。
■大入りとなった代々木第一体育館
大会後はドラマの主題歌「まなざし」を歌う「honey l days」の二人がサプライズゲストとして登場。生演奏を披露し、拍手喝采の中 大会は幕を降ろした。
■honey l days
■優勝杯を掲げる青森大学選手
■ ※演技写真ではなく胴上げのひとコマ
■honey l days と 青森大学