第68回全日本体操団体選手権大会女子決勝レポート

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女子決勝 
■第1ローテーション
1組 日本体育大学・戸田市スポーツセンター
笹田夏実選手、ユルチェンコ1回ひねりで着地をほぼ止める。Eスコア9.1/14.100。続く佐藤亜希穂選手も同じくユルチェンコ1回ひねりだが、雄大でまっすぐな伸身姿勢を見せ、着地をマットにねじ込むように止める。Eスコア9.35/14.350 最後に永井美津穂選手がユルチェンコ2回ひねりを豪快に決め、14.750を叩き出し、日体大応援席から大歓声。チーム得点43.200
対する戸田は3人中2人がユルチェンコ2回ひねりで攻めてくるDスコアで差を付ける作戦。山本優理子選手が雄大な実施でEスコア9.0を叩き出し(14.000)、このまま勢いに乗りたいところであったが、桒嶋姫子選手、小池亜優選手共に詰まってしまい、後半失速、腰が折れて落ちてくる形となり、Eスコア8.55、8.65と計画していたスタートダッシュが切れず、ここで日体大に0.5の差を付けられてしまう。チーム得点42.700
2組 国士舘大学・朝日生命
玄人好みの「上手い」体操をしてくれる時枝里衣選手が国士舘大学のトップバッター。緊張からか、出だしの翻転倒立、フット倒立で少し反りが出てしまうが、最後まで耐え、スピード感のある演技をやりきる。続く杉村美奈選手もほんの少し焦りが見えたが終末技の着地1歩までしっかりまとめる。最後にこの種目のファイナリスト常連、大瀧千波選手がトカチェフや背面車輪1回ひねり+ギンガー、ムーンサルトまできっちりとまとめあげる。39.550
朝日生命は猪爪あや選手をトップバッターに起用。イエガー、伸身ダブル下りなどを力強く決め、職人、美濃部ゆう選手へつなげる。その美濃部選手、中身はいつも通り片手軸1回ひねり等をうまくこなしたが、最後の前宙ダブルでほぼ、しりもちのようなしゃがみ立ち。続く野田咲くら選手はイエガーのスイング時に低棒に足が当たるミス。しかしそのまま問題なくイエガーはキャッチ、下りの着地で2歩。1種目めとしてはまあまあの出だしか。38.800
3組 中京大学・中京ジムナスティッククラブ
3組は愛知県勢同士の戦い。中京大学は寺本明日香選手がいつも通り、バク転+バク転+片足スワン(B+B+C)や、終末技3回ひねりを安定した実施で見せる。チーム得点はなんと全体で2位の38.750。
対する中京ジムナスティッククラブはエースの松村泰葉選手の点数が伸ばせなかったが、稲川右佳選手、若手の山家華音選手がふんばる。
4組 フジスポーツクラブ・東京女子体育大学
4組には表現力豊かな選手が集まるフジスポーツクラブがゆかスタート。原島瑛里選手がトップバッターで、小学6年生塙颯香選手が小柄ながら元気いっぱい、かつ、優れた表現力を見せると、全日本ジュニアでエレガンス賞を受賞した花島なつみ選手が溢れる笑顔で魅力たっぷりの演技を披露。ジュニア選手ながら、この表現力は素晴らしいものである。
さらに、昨日の8位同点タイブレイクルールで勝ち上がってきた東京女子体育大学は1年生の湖山乃雅選手、脚力の強い小畠彩夏選手を中心に大学生らしい、パワフルな演技を見せる。
■第2ローテーション
1組戸田は段違い平行棒。
小池選手が一つ一つ正確な倒立姿勢と、高さのあるパク宙返りを実施、屈身ダブル下りの着地を決める。13.700  ここで宮内玲奈選手にミスが。。。車輪1/2ひねりでおそらくバーを持ち損ね、次の前方車輪で膝を曲げて少し停滞してしまう。なんとかイエガーへとつなぎ、ピンチを乗り切ったかと思ったが、ムーンサルト下りがバーに近付く実施に。Eスコア6.95(12.250)と得点を伸ばせず。
しかし最後の山本選手はそれに動じず、安定した力強い演技を店、ムーンサルトの着地を止め、Eスコア8.20(13.700)をもぎ取る。 チーム得点38.600
跳馬でリードを奪い、少し戦いが楽になった日体大。
笹田選手がかなりDスコアを落とした演技構成でEスコアをしっかりと取る作戦に出る。狙い通り13.600 1年生古賀ほのか選手はシャポシニコワ+1/2ひねり低棒移動や屈身イエガー、ムーンサルトを思い切り良く堂々とした演技でしっかりと決め、鶴見虹子選手につなげる。そして鶴見選手。逆手車輪からの片手軸1回ひねり+大逆手車輪1回ひねり+大逆手片手軸1回ひねり+イエガー(E+D+E+D)の組み合わせを素晴らしい実施で決め、不安箇所の1/2ひねり低棒移動は少し甘く入るが、大逆手片手軸1回半ひねり(E)、終末技伸身ダブルまで「さすが!」の演技を見せる。14.700!!
2組の朝日生命は平均台。野田選手はバク転~片足スワン等でふらつきが目立ち、最後の2回半ひねりもおそらくひねり不足で2回ひねりに。しかし大過失はまぬがれる。次の猪爪選手はバク転~屈身宙返りで落下。ここで次の選手にプレッシャーがかかるところだが、さすが、ここは百戦錬磨の美濃部選手、ほぼミスなく最後の屈身ダブルまで決める。やはり団体戦は経験がものを言うのか。
ここで国士舘大学に試練が。
1番手の大瀧選手はミス無くきっちりこなすが、時枝選手からはまだ堅さが消えず、バク転+スワン+スワン(B+C+C)の組み合わせで足をあげてしまうふらつきを見せるなど、その動揺がおさまらず、終末技屈身ダブルで手を付くミス。Eスコアを6.3まで下げてしまう。 その影響が柴田莉歩選手にも。ロンダート+両足スワンで落下。なんとか立て直すが、やはり6-3-3での大過失2つは大きい。
その頃、3組のゆかでは中京ジムの刀根綾奈選手、稲川選手、松村選手がそれぞれ個性溢れる伴奏曲、振り付けで観客を魅了し、チーム得点3位となる38.950を獲得。
中京大学寺本選手は最終の屈身ダブルで後ろへ1歩、よろめきながら最後のポーズを決める思わず笑ってしまうような細かいミスが出てしまったが、着々とチーム得点を重ねる。38.600
■第3ローテーション
日体大、戸田は団体戦の鬼門、平均台へ。
笹田選手、ここでも開始技をG難度の伸身1回ひねりではなく、A難度の前後開脚ジャンプ上がりに変え、とにかく落ちない、失敗しない、安全な構成で確実な演技をしてくる。前宙、バク転~スワン、交差輪、片足伸身前宙、羊ジャンプ、屈身ダブル。 13.500  鶴見選手、1年間のブランクがあったとはいえ、やはり彼女も百戦錬磨、強い。片足伸身前宙で少しふらつきがあったが、オノディ+羊ジャンプ、かかえ込み側宙、バク転~スワン、側宙、交差輪、終末技は1回半ひねりで着地ピタリ。13.900  最後は当初寺尾唯選手を予定していたが、永井選手に変更。キャプテンの意地を見せ、しっかりと通しきる。片足伸身前宙、バク転~スワン、交差輪、交差+抱え込み宙返り、かかえ込み側宙、交差1/2、片足蹴り伸身宙返り下り(D)12.500  39.900。もうここまで来たら日体大は逃げ切りモードへ。
ここで経験値の差が。。。
戸田、桒嶋選手高い位置で着地をするアラビアン宙返り(F)や2回ターン、羊ジャンプ、かかえ込み側宙、側宙などD難度の技を沢山決めるが、最後の最後、バク転+バク転+かかえ込みダブルで後ろに転んでしまうミス。もったいない!
次の小池選手は気を取り直して最後までしっかりと通しきる。もう一人の若手、岡田麻衣選手もバク転~スワン、足持ちターンでふらつき、片足伸身前宙、羊ジャンプ、側宙、交差輪、かかえ込み側宙、2回半ひねり下りをしっかり決め、なんとかミスを1つでおさえた。37.900。 チーム得点37.900
2組、ゆかでは先ほどミスがあった国士館、時枝選手が着地がほんの少しずつ乱れながらも通しきり、肩の怪我から復帰、ゆかのスペシャリスト古西里咲選手へバトンタッチ。転回~伸身前宙2回ひねり+伸身前宙(D+B)、高さとキレのある3回ひねり、2回ひねり、かかえ込みダブルを決める。タンブリングの高さとひねりのうまさは抜群。ただ、ひねり時に足のバラつきがあるので、そこは今後の課題。13.100 最後は山本夢夏選手。屈身ムーンサルト、2回半ひねり、3回ターン等を個性的な曲と振付けに乗せ、素敵な世界観で魅せてくれる。チーム得点38.850
朝日生命はオクサナ・チュソビチナ選手がトップバッター。ムーンサルト、屈身ダブル、かかえ込みダブルとシンプルな構成だが、宙返りの高さとスピードはさすが桁違いの世界レベル。11.850  野田選手、屈身ダブル、1回半+前方1回、2回半ひねり等を丁寧に決め、13.150、 美濃部選手は段違いの下りのしゃがみ立ちで太ももに負担がかかっており疲労が気になったが、浮き足水平2回ターン+浮き足水平1回ターン、かかえ込みダブル、転回~伸身前宙1回ひねり、後方1回半~伸身前宙、最後の屈身ダブルまでしっかりと持ちこたえ、意地を見せてくれた。 チーム得点38.350
3組跳馬では中京大前田早知子選手がユルチェンコ1回半を素晴らしい実施で決め、14.05、寺本選手がなんと、転回~前方伸身宙返り1回半ひねりに挑戦!世界選手権よりも高さ、ひねり共にかなり良い実施でしっかりと着地し、ライン減点があったものの、Dスコア6.2、Eスコア8.55と、「世界レベル」の跳躍を見せてくれた。ここで中京大がいっきにメダル圏内に!
■第4ローテーション
先に演技するのは戸田。
小池選手が安定した2回半ひねり+かかえ込み前宙(D+A)、ムーンサルト、屈身ダブル、かかえ込みダブルを決める。すると、宮内選手が独特な曲、振り付けで素敵な世界観を見せつつ、キレの良い3回ひねり、かかえ込みダブル、1回半+前方1回、最後の屈身ダブルまで丁寧に決める。思わず「素敵!」と言ってしまう演技。 最後はまた違う味の持ち主、山本選手。ムーンサルト、かかえ込みダブル等をパワフルに豪快に決め、戸田の応援席を大いに盛り上げる。演技後の選手の笑顔もそうだが、豊島リサコーチが笑顔で選手を抱きしめる姿も印象的。
最後はもう、逃げ切り体勢の日体大。
古賀選手が新しい曲で、元気いっぱいに笑顔で演じ切ると、永井選手が高さのあるムーンサルト、かかえ込みダブル等でキャプテンとしてしっかりと最後へつなぐ。 そして、最終演技者佐藤選手。こうなったらもう日体大は選手、応援席もお祭り状態。佐藤選手の個性がしっかりと引き出されたノリの良い軽快な曲と振り付けに合わせて彼女の身体能力の高さを伺わせる技のさばき方で1回半+1回、かかえ込みダブル、屈身ダブルを決め、会場全体を魅了する。会場が「これぞ日体大!」という雰囲気に。チーム得点40.400で逃げ切り優勝決定。
跳馬の朝日生命。
野田選手がユルチェンコ1回ひねりで流れてしまい、ギリギリしゃがみ立ち。Eスコアを7.75まで下げてしまう。 猪爪選手も少し失速してしまい、13.400どまり。しかし最後のチュソビチナ選手は昨日とは違う跳躍の転回~伸身前宙1回ひねり(Dスコア5.8)を着地小さくホップで決め、14.550を叩き出す。さすが。
国士舘大学は古西選手の伸身ツカハラ1回ひねり等で追撃するが、やはり平均台のミスが響き、4位に留まる。
ここで名将坂本監督の采配がおもしろいようにハマっている中京大学が一気に追い上げる。河合選手、前田選手と、力強く、かつ丁寧にミスなくこなし、最後に寺本選手が閉脚シュタルダー倒立(ひねりはぬく。)、シュタルダー1回ひねり+ギンガー、イエガー、ムーンサルトをバッチリと決め、13.700をもぎ取り、この時点でなんと、3位へ浮上!すばらしい追い上げを見せた。
今年は王座奪還を狙う日体大とジュニアチャンピオン、戸田市スポーツセンターがかなり力を入れて強化してきたこともあり、かなり面白い試合展開となった。やはり「失敗のなかった」日体大が強かったというのが結果にそのまま出た形となり、試合そのもの、団体戦そのものの経験値もかなり必要なのかなと改めて思わされる結果であったと言える。
この結果を違う視点で見てみると、まだ上位5位までのうち4つの所属が大学、社会人チームで占めてられているので来年に向けて、また、2020年の東京オリンピックに向けてぜひ、ジュニアチームの躍進を期待したいところである。
その一方で小学6年生や中学1年生の選手も今回活躍が見られたので、そういう素質のある「金のたまご」達を「チーム日本」として大事に、そして確実に育てていきたいものである。
<女子最終順位>
1 日本体育大学        165.300
2 戸田市スポーツセンター    158.700
3 中京大学          157.850
4 国士舘大学         156.150
5 朝日生命          155.950
6 中京ジムナスティッククラブ   155.150
7 フジスポーツクラブ      154.000
8 東京女子体育大学      150.900