2014環太平洋選手権大会男子報告

報告者:

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■期日:2014年4月7日(月)~4月14日(月)
■場所:カナダ/リッチモンド
■選手団【男子体操競技】
コーチ:松本忠親、藤原佳市、畠田好章、馬場亮輔
審判員:島田利夫、高橋孝徳
トレーナー:大川和行(マルチサポート・ボディマネジメント)
シニア選手:藤原昇平(早稲田大学)、池尻俊弥(日本体育大学)、村上雄人(仙台大学)
ジュニア選手:柚木健大朗(関西高校)、谷川翔(船橋市立船橋高校)、湯浅賢哉(船橋市立船橋高校)
■日程:
4月7日(月)成田空港集合・出発、バンクーバー空港着(チェックイン)各自練習
4月8日(火)各自練習、公式練習
4月9日(水)公式練習
4月10日(木)団体総合・個人総合・種目別予選
4月11日(金)ジュニア種目別決勝
4月12日(土)シニア種目別決勝
4月13日(日)バンクーバー空港出発
4月14日(月)成田空港到着、解散式

■現地での調整
4月7日(月)の18時すぎに成田空港を出発し、現地時間の11時過ぎにバンクーバー空港に到着した。ホテルに到着した時間は、現地時間で7日の12時過ぎであった。当初の情報ではこちらは日本よりも寒く、まだまだ雨量の多い時期と聞いていたが、日本と変わらない程の天候、気温であった。その後、ホテルにチェックインし、各自昼食を摂り、試合会場であるオリンピック・オーバルへと練習に向かった。時差調整を兼ね、約2時間の軽練習内容を設定したが、選手達は積極的に練習を行い、器具(GYMNOVA製)の感触、コンディション等を確かめていた。
8日(火)の午前はサブ会場練習でのトレーニング(11:00〜12:30)、午後は試合会場にて試合開始種目からの20分ローテーションの公式練習(18:00〜20:30)を行った。練習内容は各自1本の全習練習を実施した。シーズン前ということや、到着後の初めての全習練習ということもあり、時差や器具への対応の影響で終末技での失敗などが見受けられたが、動き自体は悪くなく、それほど不安な部分はなかった。また、試合会場の隣にはサブ会場がセットされており、試合会場での練習不足はそこで補う形をとり、各自調整をした。
9日(水)は、試合会場にて15分ローテーションの公式練習(10:30〜11;45)を行った。試合が翌日に控えているということもあり、練習内容は、昨日の失敗部分や詰め切れられていない箇所を重点的に、最終確認練習を行なった。この日から女子の競技が始まるということで、練習後一旦ホテルへ戻り、昼食後、女子団体・個人総合の応援へと向かった。

■競技
4月10日:団体総合(6-5-4)&個人総合14:45会場入り17:30試合開始20:30試合終了
男子の出場国は全13カ国で、日本は2班目の跳馬からスタートした。シニア(3名)とジュニア(3名)を合わせ、6名のチーム登録、5名が演技を実施し、上から4名の得点をチーム得点とする競技方式であった。そして、チーム登録を行なった6名全ての選手が個人総合(シニアとジュニア別々)の権利を持ち、団体総合は種目別予選を兼ね、決勝へはシニアとジュニア別々で進出し、8位以内・各国2名までという規定で行なわれた。ルールは、シニアクラス選手に関してはFIG一般ルール、ジュニアクラス選手に関してはユースルールが適用された。
<跳馬>
1番目の湯浅は美しいアカピアンで13.950を叩き出し、良い流れを作った。2番目の柚木もアカピアンを着地までまとめ、14.000。3番目の村上はユルチェンコ2回ひねりで着地大きく左一歩前に動き、ラインを超え、13.700。4番目の藤原はドゥリッグスを着地小さく一歩でまとめ、14.300。5番目の池尻は跳越距離のある雄大なドゥリッグスで、14.400をマーク。6番目の谷川は伸身カサマツで着地を止め、質の高い実施で13.650。大きなミスなく1種目を終え、最高のスタートを切ることが出来た。
<平行棒>
1番目の演技者である柚木は、中技は良かったものの、着地で後ろに転倒し12.750。続く2番目の湯浅は各技での小過失が見られ、想定以上にEスコアが伸びず、12.350。3番目の村上は減点の少ない素晴らしい実施で、Eスコアで高得点を出し、14.450。4番目の藤原はホンマ支持での詰まりがEスコアに響き、13.300。5番目の池尻はダイナミックな演技を魅せて、14.750。6番の谷川は隙を見せない演技で、14.000を獲得。
<鉄棒>
1番目の演技者である柚木は、コールマンで落下したが、その後着地を止め、12.350。続く2番目の湯浅は開脚エンドー1回ひねりで大きく歪み、Eスコアが伸びず、13.500。3番目の池尻はクーストでの外れが多少目立ったものの、着地をまとめ、14.300。4番目の村上はややコールマンで近づき、下り技の伸身ムーサルトで大きく2歩出し、13.950。5番目の藤原はダイナミックな離れ技を繰り出し、着地まで止めて、14.750。6番の谷川は美しい演技で、着地を小さく一歩にまとめ、Eスコア9.1の高得点、14.000を獲得。
<ゆか>
1番目の演技者である柚木は、各コースの着地を決め、改心の演技で14.000。続く2番目の湯浅は1コース目の前方1/1ひねり宙返り〜前方5/2ひねり宙返りの着地でラインを割り、2コース目のかかえ込み1/2ひねり前方2回宙返りの着地で尻もちを付き、11.700。3番目の村上は嫌な流れを断ち切る素晴らしい演技で15.000。4番目の藤原は各コースの着地姿勢が低さ、ひねり不足等の減点が響き、14.150。5番目の池尻は高さのあるタンブリング系を実施し、14.450。6番の谷川は高難度のタンブリング技を淡々と決め、Eスコア9.35の高得点で、14.450を獲得。
<あん馬>
1番目の柚木は、前半スピードに乗った旋回で各技をこなしていたが、シバド移動で落下し、11.700。2番目の湯浅は腰の位置が高い、質の高い実施で13.950。3番目の村上はDスコア5.1と低いものの、落ち着いた演技でEスコア8.9の高得点で14.000。4番目の池尻は、下り技で若干の詰まりが見られ、14.000。5番目の藤原は2回目のセアー倒立で降ろす部分で持ち損ない、器具上落下をした。その影響もあったのか、Dコンバインを行なえずに、その後のループで再度落下してしまい、10.850。藤原にとってこの得意種目で、点数を稼ぎたかっただけに非常に残念な演技となった。6番の谷川はE難度の下り技を魅せ、Eスコア9.00の高得点で、13.600を獲得。
<つり輪>
ラスト種目、1番目の柚木は振り上がり十字懸垂の持ち込みが高く、分割で難度認定をされてしまった。着地は僅かに動いたがまとまりのある演技で13.000。2番目の湯浅は、ホンマ十字の持ち込みが高く、分割で難度認定され、下り技も当初予定していた伸身サルトからかかえ込みサルトに変え、得点が伸びず13.000。3番目の池尻は確実に力技を決めたものの、前方車輪で倒立から外れてしまい、振れ戻って支持姿勢になるという大過失を出した。その後、着地は止めてものの、13.150。4番目の藤原は、力技での力強い表現を存分に見せ14.350。5番目の村上は後転中水平でスイングを使ったため、E難度で認定された。また、引き上げ中水平の持ち込みが高過ぎて、Dスコアを下げることとなり、14.000。6番目の谷川はスピードに乗ったヤマワキ系の技を決め、着地で僅かに動いたものの13.000を獲得。チーム得点333.550で最終種目を終えた。
優勝したアメリカとは5点の大差を付けられ、団体総合2位という結果であった。シニア個人総合では、池尻俊也が85.050でアメリカのオロズコ選手に次ぎ、2位。村上雄人は84.900で3位であった。また藤原昇平は81.300で7位と、あん馬でのミスが悔やまれる結果となった。ジュニアクラス個人総合では、大きなミスなく、淡々と演技をした谷川翔が82.700で圧勝した。そして、湯浅78.600で5位、柚木77.800で7位と続いた。シニア・ジュニアともに、全ての選手が種目別決勝に駒を進めた。

4月11日:ジュニア種目別競技16:00会場入り18:30試合開始21:30試合終了
シニア選手は、サブ会場にて軽めの練習を行った。軽いストレッチ・トレーニングを行い、明日の種目別決勝に向け、調整した。
<ゆか>
予選トップ通過の谷川は2番目で登場し、1コース目の着地が少し動いたものの、残りのコースの着地は全て止め、Eスコア9.2の高得点を獲得、中国の選手と同点で優勝を飾った。5番目の柚木は、会心の演技を決めたものの、Eスコアが伸びず、13.950で4位に終わった。
<あん馬>
湯浅は6番目で登場し、Dコンバインの下向き転向時に前のめりになり落下、その後は丁寧な演技で12.650の4位、予選トップ通過であっただけに失敗が悔やまれる結果となった。8番目の谷川は、小柄な体を存分に動かし、持ち前の安定感のある演技を見せ、13.200で3位に入った。
<つり輪>
7番目での登場した柚木は団体総合時に力技の分割認定があったため、構成を変更し臨んだ。内容は良かったが着地が小さく前に2歩動き、13.400の4位。続く谷川は、下り技の前の倒立からのスイングがややズレ、着地を大きく前1歩出し、13.150で6位。他の選手の価値点が高く、メダルは獲得できなかった。
<跳馬>
4番目で登場した湯浅は、やや腰取りのある実施であったが、アカピアンを決めてEスコア9.05、14.250で3位。7番目で登場した柚木も同様の技を行い、着手時に詰まりが見られ、空中局面の低い実施となり、Eスコア8.70、13.900の6位、残念ながら、日本選手は表彰台には上れなかった。
<平行棒>
予選2位通過の谷川は6番目で登場し、中技を完璧にこなし、さらに着地まで止め、Eスコア9.15、13.950。8番目に中国選手がシニアでも通用するぐらいの素晴らしい演技を行なったが、残念ながら着地で転倒してしまったため、谷川が首位のまま逃げ切って優勝した。
<鉄棒>
予選4位通過の湯浅は2番目で登場し、予選で出してしまったミスを修正し、着地は軽く前1歩に留め、Eスコア8.80、13.900でこの時点のトップに立った。予選1位通過の谷川は5番目に登場した。アドラー倒立とクーストの外れが目立ってしまったが、伸身ムーンサルトの着地を止め、Eスコア9.00、13.900で湯浅と並び、表彰台を日本人選手が独占し、種目別ジュニアの部は幕を閉じた。

4月12日:シニア種目別競技13:00会場入り14:30試合開始17:30試合終了
<ゆか>
予選トップ2位通過の村上は2番目で登場、1コース目の着地でラインを割ってしまい、その影響なのか、やや動きに焦りが見られ、各コースの着地を取りこぼしてしまった。最終コースの後方宙返り3回ひねりで手を付いてしまい、Dスコア6.0、Eスコア7.35で13.350。8番目で演技した池尻は、宙返り系の連続での詰まりが若干見られたものの、最終コースの着地を止め、Dスコア6.0、Eスコア8.35で14.350をマークし、3位に食い込んだ。
<あん馬>
池尻は5番目に登場し、演技前半は軽快な技を淡々とこなしていたが、演技後半のシバド移動でバランスを崩し落下、下りも難度を下げ、11.950で8位に終わった。この種目別決勝では多くの落下者が出ており、Dスコアの低い村上にも表彰台のチャンスが巡ってきた。7番目の村上は、質の高い実施であったが、下り技での詰まりがEスコアに響き、13.500で4位に終わった。
<つり輪>
4番目での登場した藤原は、見せ場の中水平から引き上げ中水平で場内を湧かせたが、着地を小さく1歩出してしまい、Dスコア6.1、Eスコア8.55で14.650。団体競技の時よりも得点は高かったが、他の選手のDスコアが高く、メダルは獲得できず、5位に終わった。
<跳馬>
日本からの出場選手はいなかった。
<平行棒>
6番目に登場した池尻は、入り技の棒下宙返り倒立で、手が滑らせたのか、倒立まで上がらず、手ずらしも多く行なってしまった。その後、立て直そうと演技を続行したが、後方車輪で再び倒立まで上がらず、落下。気持ちを整えて再度臨んだが、チッペルトで器具上落下をしてしまい、Dスコア5.0、Eスコア4.9の9.900で8位となった。続く村上は素晴らしい演技を行なったが、着地で大きく後方に動き、Eスコア8.35の14.250で5位に終わった。内容が良かっただけに着地の乱れが非常に悔やまれる。
<鉄棒>
1番目で登場した池尻は、平行棒での失敗を引きずらずに、持っている力を出し切り、Dスコア5.9、Eスコア8.25、14.150。続く藤原は5番目に登場した。アドラー1/1ひねり倒立から雄大なヤマワキ、そして車輪を挟んでのコールマンを決め、波に乗れると思ったが、シュタルダーホップターン1/2ひねりで倒立を狙い過ぎたためか、押し切れずに潰れてしまい、演技が停止してしまった。その後、クーストで手を外してしまい、首をぶつけて落下。Dスコア5.9、Eスコア6.35、12.250で8位に終わった。この種目は落下者が多く、誰もが表彰台の可能性を持っていただけに、惜しい結果となった。

■総評
今回の競技会は、大学生(Under-21)から3名、そしてジュニアナショナルから3名の計6名の選手で本競技会に臨んだ。会場での顔ぶれや公式練習を見ると、アメリカ、カナダは代表選手を送り込み、この競技会に対する力の入れようが伺えた。また、中国は若手選手にチャンスを与える場として、本競技会に臨んでいるのではないかという印象を受けた。
団体総合では、各国の失敗が多々見られ、どれだけ我慢強く踏ん張れたかが、順位に大きく影響を与えた。優勝したアメリカは、あん馬を大きな過失者無く切り抜け、対する日本は2名、中国は3名落下者を出し、結果、チーム得点を下げる要因へと繋がった。この競技会に限らず、やはり勝負の分かれ目となるのは、落下のリスクが高い種目の出来、不出来であると改めて感じた。
ジュニアクラス種目別決勝のレベルは思っていた以上に高かったが、その中でも、メダルを6個獲得した日本選手の活躍は目を見張るものであった。個人総合1位の谷川選手は、安定した演技を2日間に渡って披露し、観ているものを魅了した。だが、今回の競技会がユースルールでなければ、ここまで多くのメダルを獲得できていなかったと感じる面もある。他国は質がまだまだ低いものの、高難度の技を随所に盛り込み、FIG一般ルールでも十分シニアに通用する演技を行なっており、各国のジュニア強化が順調に進んでいるという印象を受けた。
シニアクラス種目別決勝のレベルは種目によっての差が大きく見られた。あん馬・鉄棒では、高いDスコアを行なわなくても、美しく、質の高い演技を行なえば、十分メダルの可能性はあったと思われる。ジュニアクラスでは本番前のアップが1本行なうことが許され(安全面の配慮とのこと)たが、シニアクラスはノータッチで行なわなければならなかった。その影響もあったのか、失敗が多い種目別決勝であった。今回のシニア選手は、このような種目別競技スタイルが初経験のため、対応が難しかったと思う。しかし、オリンピック・世界選手権では今回同様の種目別競技スタイルであるため、今回の経験を無駄にはせず、今後の競技会には是非とも対応して頂きたいと思う。
本競技会は5月から始まる競技会シーズンの前ということもあり、まだ技術面・精神面で詰め切れていない印象を受けた。しかし、各所属での試技会ではなく、実際の競技会を行なったことで、試合感を掴み、現在の状況把握に役立つ良い機会になったと感じる。また、海外での競技会ということで、全てが思い通りにいく環境ではない中で、練習および競技会を行なったことは、今後の選手の競技力向上に確実に寄与するものであると確信している。情報21号改訂版での競技会がシーズンインするが、主要国内競技会前に試合を経験できたことは、選手自身に好影響を与えるとともに、スタッフにとっても、学ぶことも多く、指導における新たな着眼点を見い出す良い機会となったに違いない。今大会の手応え、また反省点を真摯に捉え、今後活躍してくれることを期待したい。
最後に、本大会参加に際し、日本体操協会をはじめ、多くの関係者の皆様、そして本大会を運営して頂いた大会組織委員会、カナダ体操協会の方々に感謝の意を述べ、報告を終えたい。

報告:松本忠親/藤原佳市/畠田好章/馬場亮輔

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