第64回全日本新体操選手権大会レポート[女子決勝]
<個人種目別決勝>
1種目目フープでは、個人総合優勝を飾った山口留奈選手が、難度、投げ技、動きともに神経まで行き届いた切れのある演技で25.800点をマークし1位。彼女自身も納得したのだろう、演技終了後満面の笑みで会場に大きく手を振る姿が印象的だった。2位は、24.700点を獲得した大貫友梨亜選手。試技順1番だったにも関わらず、昨日までの緊張感から解き放たれた彼女の演技は、競技ということを忘れるほど魅せる演技に仕上がっていた。個人総合2位の中津裕美選手は、不正確な受けや難度の崩れが目立ち24.675点で3位となった。
2種目目ボールでも、ミスなく伸びやかな演技で25.500点を獲得した山口選手が1位。続いて25.025点で2位に入った穴久保璃子選手は、難度のブレも少なくなり、作品として魅せる演技が出来るようになってきた。演技に多少乱れが見えた中津選手、大貫選手は、ともに24.375点を獲得し同点3位で肩を並べる結果となった。
続いてのクラブでも、今大会最高点の25.850点をマークした山口選手が1位を手にした。彼女の演技には、単独で行う投げ技以外にも、徒手難度をしながらの投げが多く含まれている。これは、実施する上で難易度が高くなるだけでなく、落下や不正確に実施された場合、ミスによる減点に加え徒手難度もカウントされなくなるというハイリスクを伴う。だが、それに挑戦していくからこそ演技のクオリティが高くなり、見応えのある作品になるのである。2位には、中津選手がミスなく抑え24.300点。続く3位には、アップテンポの曲に合わせダイナミックに踊り切った三澤樹知選手が24.100点で、今大会初のメダルを手にした。
ラスト種目リボンでは、ミスが相次ぐ中上手くまとめた大貫選手が24.700点で念願の1位を手にした。彼女のスピード感に乗った流れのある演技は、見る者を引きつける力がある。これは難度を確実にこなすこと同様にとても重要であり、機械的に難度をこなすだけにならないためにも、競技者が忘れてはならない。山口選手は、落下ミスに加え徒手難度が安定せず24.425点で2位、完全優勝には一歩及ばなかった。3位には24.325点を獲得した穴久保選手が入った。
種目別リボンにのみ出場した日高舞選手は、惜しくも4位に終わった。しかし、彼女の引退を惜しむ多くのファンや仲間からは心からの拍手が鳴り響き、彼女の渾身の演技を称えていた。彼女のダイナミックな技、パワフルな演技は、沢山の人の心にいつまでも残っているであろう。
近年日本の新体操個人は、世界選手権大会で予選突破することさえ難しくなってきているのが現状であるが、決して入りこむ余地がないわけではない。
今後世界と肩を並べて戦っていくためには、ミスをしないこと、また徒手難度のレベルアップ・正確性、表現力を高めていくことは絶対条件である。その上で望まれることは、徒手難度のフォームにこだわり、大きさ・しなりのある伸びやかな演技を目指すことであろう。また手具に関しては、単独での投げ技に加え、徒手難度と組み合わせて実施するような、よりリスキーでハラハラする投げ技、操作に挑戦していかなくてはならない。その為にも、全国の選手、指導者ともに、日本国内で争う意識から早く抜け出し、世界規準に照準を向けていくことが必要不可欠である。
<団体種目別>
1種目目のボール5では、団体総合上位3チームともに一つのミスもない完璧な演技で仕上げてきたため、どのチームが1位を手にするのか、目が離せないとても面白い展開となった。
試技順1番であった武庫川女子大学は、団体総合の時よりも更に洗練された力強い演技で観客を沸かせ25.000点。続いて2番目に登場したのが、団体総合優勝チームの日本女子体育大学。彼女たちもまた総合の時にも増した流れの良さが際立ち、徒手難度、交換ともにブレがない演技で今大会最高得点の25.600点を叩き出した。この点数に会場中が沸く中登場したのが東京女子体育大学。緊張感がヒシヒシと高まる中、5人の呼吸がピタリと合ったミスのない完璧な演技は、再び会場を沸かせた。だが点数は25.400点にとどまり、惜しくも団体総合のリベンジとはならなかった。点数が伸びなかった要因は、コラボレーションというルール上高さや距離を必要とする投げ技において、規準を満たす高さで実施されず、難度としてカウントされなかった個所が幾つかあったことである。素人目には分らないところ、だが競技である以上ルールは絶対的であり、細部にわたり注意を払わねばならない。
フープ2×リボン5はどのチームもミスが目立つ中、最後まで乱れることなく演技をまとめあげた日本女子体育大学が25.475点で1位となり、完全優勝を果たした。2位は25.200点を獲得した東京女子体育大学。プレッシャーに負けない気迫ある演技を披露したが、交換での移動が重なり点数につなげることが出来なかった。そして3位には、金襴会高等学校が高校生とは思えない迫力のある演技でミスなくまとめ23.400点を獲得した。
今大会において、それぞれの思いの強さが力となって表れた選手、逆にプレッシャーとなり硬さとなって表れた選手・・・。
新体操は他者と張り合い戦う競技ではないだけに、一番の敵である自分自身と常に戦わなければならない。だがその敵(弱さ)との戦い方を知った時、選手はより強く、より華やかに試合で演技出来るのであろう。そう言った意味でも、選手たちの今後の活躍がとても楽しみである。