2018新体操モスクワ・グランプリレポート

報告者:山崎浩子

2月17日、ロシアにてモスクワグランプリが開催された。
日本からは喜田純鈴が出場(皆川夏穂はコンディション調整のため、不参加)。

喜田の1種目目はクラブ。
4種目とも作品を変え、今季初戦ということもあり、緊張感が漂う。
前半はうまくおさえていたが、まだ成功率の低いADで落下。ラストのADでもクラブを押さえきれずに、1本のクラブが離れたままポーズ。
(BD3.90 AD4.20)D8.10 E6.90 合計15.00

2種目目のリボンでも、スティックをころがすADで2箇所落下。
なかなかペースがつかめず、
(BD4.00 AD3.50)D7.50 E6.50 合計14.00

3種目目はフープ。
フープは昨年作品に入っていたADやR(リスク)をうまく取り入れて慣れているせいか、大きなミスもなく
(BD4.20 AD4.80)D9.00 E8.35 合計17.35
実施の見方が厳しくなった中で8.35をとり、合計でも17点台に乗せられたのは収穫が大きい。

最終種目はボール。
フープに続いてなんとか落下なしでおさえたが、パンシェのローテーション後、前方転回のADを行うためにぐらつき、手をついた形になったため、ミスが大きくなった。
(BD3.60 AD4.40)D8.00 E7.20 合計15.20

個人総合では8位入賞(43人中)を果たしたが、喜田の上にはロシア勢が5人もおり、そんな中では大健闘と言えよう。
全体を通しては若干勢いがなかったが、昨年に比べて美しさが増しており、つなぎも良くなっている。
まだ踊りこなすというところまではいっていないが、4種目それぞれに違うテーマに挑んでいて、今後熟練していけばより評価もあがっていくであろう。

​1位となったのはロシアのDina AVERINA。
1種目目のフープでは、ジャンプでの跳ね返しで落下。
しかし、そんなことはものともせず、次から次へとAD(加点の可能性のある手具操作)やR(投げて、2回以上の回転を行ってキャッチ)を決めていった。​落下があったのにも関わらず、合計18.20と高得点を得た(詳細不明)。
他の種目も、ややもたついてADをやらない箇所などがあったが、大きなミスは回避した。
ボール(BD4.50 AD5.20)D9.70 E8.55 合計18.25
クラブ(BD4.30 AD5.40)D9.70 E8.70 合計18.40
リボン(BD4.30 AD3.90)D8.20 E8.40 合計16.60 総計71.450。

リボンはADを入れづらいので、全体では16.750が最高点。

2位は同じくロシアの双子の姉妹、Arina AVERINA。
フープではいくつかミスがあったが、
(BD4.00 AD6.20)D10.20 E8.10 合計18.30
本年より新ルールとなり、難度点が青天井となったが、Dで10.20を出して、少しぐらいのミスではびくともしないという感じである。
ボール(BD4.50 AD5.40)D9.90 E8.60 合計18.50
クラブではRで落下があり、
(BD4.50 AD4.50)D9.00 E7.75 合計16.75
リボンは後方支持ありローテーション時にリボンが身体にからみ、
(BD4.50 AD3.80)D8.30 E8.40 合計16.70 総計70.250

3位にロシアのBRAVIKOVA、4位にロシアのSOLDATOVA。
SOLDATOVAは、ダイナミックな演技を繰り広げたが、移動キャッチや、やや重い感じがあった。
リボンではダイナミックかつ情感たっぷりの演技で、
(BD4.30 AD3.60)D7.90 E8.85 合計16.75
リボンでは最高点となった。

5位はベラルーシのHALKINA。
フープは操作ミスはほぼなく
(BD3.90 AD5.40)D9.30 E8.50 合計17.80。
ボールはローテーションで崩れて
(BD3.90 AD4.10)D8.00 E7.95 合計15.95。
クラブは落下あり。
(BD4.50 AD3.80)D8.30 E8.10 合計16.40。
リボンはステップ中に落下。
(BD4.40 AD4.10)D8.50 E8.15 合計16.65 総計66.800

6位はジョージアのSalome。
昨年と同じ作品もあるが、他の選手とは違うADや動きを用いており、独特の世界観はロシアでも人気である。
クラブは(BD4.50 AD3.50)D8.00 E8.70 合計16.70
他の種目はミスが多く、14点、15点台。
リボンは東京オリンピックを意識しているのか、着物風のレオタードに日本の曲を用いている。16.20
総計62.950

7位にロシアのPolina KHONINA 総計62.450
そして8位が喜田である。

全体を通してはどの選手もADをかなり入れ込んできている。
よって音楽もガンガン鳴る曲が多いと感じた。

入れやすいADは決まってくるため、どの選手も似通ったADとなってしまうのだが、そんな中、10位となったブルガリアのKALEYNは難しいADを入れてきているので、成功率が高くなれば、常に上位に位置するようになるだろう。

ほかには韓国のKIMが、フープとボールの2種目で16点台を出した。
躊躇せずにADやRに取り組んでいるので、今後も上がってくるだろう。

全体の傾向として、Rでは、回転しながらキャッチをするという選手は減ってきている。それより、手以外、視野外できちんとキャッチするという方向性が見られる。
ステップは昨年より見やすくなっている。

新ルールでの大会は始まったばかり。審判員の評価により、若干の路線変更はあるだろうが、実施重視ではなく、難度点を上げていくというラインは崩れないだろう。

明日は種目別決勝が行われ、喜田はフープとボールの2種目に出場する。

2月18日、モスクワグランプリは種目別決勝が行われた。
<フープ>
試技順1番で登場した喜田純鈴は、前半は昨日より伸びやかに見えたが、投げが少々前方に飛んでいる印象。
投げてMGキックで受ける箇所もほんの少し前にフープが飛び、落下。
エカルテバランスの上体の高さや、後方支持ありローテーションのくずれなどもあり、
(BD3.10 AD3.70)D6.80 E7.00 合計13.80で8位。

1位はDina AVERINA。
落下の危険性のある箇所をどうにかしのぎ、全体的に荒い感じはあったが、
(BD4.60 AD5.60)D10.20 E8.45 合計18.65

2位はブルガリアのKALEYN。
出場予定のArina AVERINAが直前のケガで棄権し、リザーブからの出場であったが、ほぼミスのない演技で
(BD4.40 AD5.00)D9.40 E7.75 合計17.15

3位はベラルーシのHALKINA。ADで2箇所落下ミスが出て
(BD4.30 AD4.60)D8.90 E7.05 合計15.95

<ボール>
喜田はステップ中にポトリと落下。得意のパンシェのローテーションがはまらず、
(BD4.00 AD3.40)D7.40 E6.95 合計14.35で5位。

1位はロシア勢をおさえて、ブルガリアのKALEYN。
ADやRに難しい技を入れているが、ほぼミスなくこなした。
(BD4.40 AD6.00)D10.40 E7.55 合計17.95

2位はロシアのDina。
ADで落下し、全体的に緩い感じもした。
(BD4.60 AD4.90)D9.50 E7.85 合計17.35

3位はベラルーシのHALKINA。
ガンガンと鳴る音楽が多い中で、彼女の作品は美しさを際立たせていた。
(BD4.00 AD4.50)D8.50 E8.50 合計17.00

<クラブ>
1位はロシアのDina。
大きなミスなく終えると、たまらず涙が。
ボールでの2位は非常に悔しいものであったろうし、絶対に勝たなければならないというプレッシャーの中で、
戦いを終えて安堵の気持ちがあったのであろう。
(BD5.20 AD5.10)D10.30 E8.20 合計18.50

2位はロシアのSOLDATOVA。
ADをやらない箇所や、移動してのキャッチなど少々ミスが出た。
(BD4.30 AD4.30)D8.60 E7.70 合計16.30

3位はイスラエルのTELEGINA。
さほど印象に残る選手ではないが、きっちりと正確に行うという強みがあり、
(BD4.10 AD3.60)D7.70 E7.35 合計15.05

SalomeやHALKINAは落下ミスが出た。

<リボン>
1位はHALKINA。
優雅さと深みを見せつけた。
(BD4.60 AD3.70)D8.30 E8.15 合計16.45

2位はSOLDATOVA。
ステップ中にリボンの結び目ができてしまう。なんとかリボンの落下は防いだが、身体が落下気味。
(BD4.80 AD3.40)D8.20 E7.60 合計15.80

3位はKALEYN。
Rで落下したが、音楽の使いやステップも変化があった。
(BD4.60 AD3.20)D7.80 E7.15 合計14.95

種目別の今日は、初戦の疲れからかどの選手もミスが多かった。1度ミスをすると、リズムが狂いっぱなしの選手もいた。
しかし試合に慣れていくにしたがい、完成度も高くなっていくと思われる。

喜田は、美しさはあるが、よりパワーが必要である。
少しぐらいのミスには影響されず、ガンガンと攻めていってほしい。

<団体総合>17日開催
​日本(フェアリージャパンPOLA)はコンディション調整のため不参加。
出場国は4ヵ国と少々寂しい状況であったが、新ルールに変わって、強豪国がどのような内容でくるのかを知るのに、良い機会となった。

​1種目目はブルガリアがフープから、ロシアがロープ&ボールからであったが、1種目を終えてブルガリアが首位に立つ。
連係の落下や、連係の乱れからひとりの選手がフェッテローテーションをまったくやらなかったにもかかわらず、
(BD、ED、S 4.90)(R、C 6.50)D11.40 E7.10 合計18.50
*BD=身体難度 ED=交換 S=ステップ R=リスク C=連係

今季から団体も難度点が青天井になったが、ミスがあって11.40であるから、どれほどの難度を作品に入れ込んでいるのかをうかがい知ることができる。

ロシアのロープ&ボールは、連係でボールが場外までころがっていった。
中盤も乱れて、BDも緩い感じがした。
(BD、ED、S 4.90) (R、C 5.60)D10.50 E6.65 合計16.55​

2種目目のブルガリア(ロープ&ボール)は、落下して場外へ。
他の箇所でも落下があり、
(BD、ED、S 4.60) (R、C 7.00)D11.60 E6.55 合計17.85​
ミスをしてもR、Cの得点が7.00を出せるということは驚異的である。複数投げや、キャッチの際の視野外、手以外などを多用しているため、この点数になるのであろう。2種目総計36.35

このままではロシアの優勝は厳しいと思えたが、2種目目のフープは落下ミスを防いだ。
パンシェのぐらつきやキャッチの際の移動などはあったが、なんとか持ちこたえ、
(BD、ED、S 5.40) (R、C 6.50)D11.90 E7.95 合計19.85
2種目の総計で36.40で、わずかにブルガリアをかわした。

3位はフィンランド
4位はウズベキスタン

<団体種目別決勝>18日開催
フープの優勝はブルガリア。
中盤で連係が乱れたが、うまく対処し、ミスは最小限に抑えた。
​ (BD、ED、S 4.60) (R、C 6.30)D10.90 E8.00 合計18.90

2位はロシア
ED(交換)での移動や、連係での落下ミス、不正確なキャッチ、バラツキなどミスが目立った。
(BD、ED、S 5.40) (R、C 5.90)D11.30 E7.30 合計18.60

3位ウズベキスタン、4位フィンランド

ロープ&ボールの優勝はロシア。
もたつきやバラツキ、パンシェバランスの乱れなどはあったが、大きなミスはなく
(BD、ED、S 5.00) (R、C 6.30)D11.30 E8.00 合計19.30

2位はブルガリア。
連係での移動や、連係での落下があった。
(BD、ED、S 4.70) (R、C 6.60)D11.30 E7.20 合計18.50

3位フィンランド、4位ウズベキスタン

ロシアもブルガリアも、多少ミスが出ても残る点数が大きい。
難度点の10点満点が廃止されたことを受け、主にC(連係)において難度点が高く出るように作品を作っている。
昨年までは実施の勝負であったが、これからは難度点の勝負となっていくだろう。
より高度な技に挑戦し、その中で実施の完成度を上げていくことが必要になってきたと言えよう。

<インターナショナルトーナメント・ジュニア>2月15日開催
日本からは末永柚月が出場。今大会は個人総合がなく国別対抗戦のみであり、山田愛乃とともに国別を戦う予定であったが、山田がコンディション調整のために出場を取り消したことで、1人のみ参加。
現在の力を知るという大会となった。

末永は全体的にはとても美しく、洗練されている印象。
しかし、ローテーションがはまらず、パンシェバランスで床に手をつくなど、BDが伸びなかった。また上体の動きも固いことから、実施でも伸びを欠いた。
最高で10.800(BD2.80 AD2.80)D5.40 E5.40
落下ミスなどは練習で改善されると思われるが、課題としては上体の動きの固さである。上体がもっとしなやかに動いてくると、躍動感が出てくるであろう。  ​

今大会は​新ルールに変更され、世界の傾向を知る良き機会となった。
今後も世界の動向を見ながら、どう戦っていくかを練っていかなければならない。​