2014新体操W杯フランス大会報告

報告者:

新体操W杯フランス大会(コルベイユエソンヌ)大会報告 大会結果はこちらへ

■第1日目
5月9日~11日、フランスのコルベルエソンヌにおいて31カ国52人の参加で大会の初日を迎えた。日本からの参加はロシア強化中の皆川夏穂。同じくロシア強化中の早川さくらは、2月末に負った疲労骨折の再発防止のため、この大会は欠場してロシア合宿に入っている。大会はAB 2グループに分かれ、皆川はAグループで登場した。Aグループには、強豪ロシアのKudryavsteva Yana、Mamum Margarita ,ウクライナのRizadinova Gannna、ベラルーシのHalkina Katsiarina、Caropa Arina、ウズベキスタンのRakhmatova Djamila、中国のDeng Senyue 、イスラエルのFilanovsky Victoria、などの顔ぶれである。一方、Bグループには、4月のペサロWCにて一気に17点後半をマークして上位入りを果たしたフランスのMustafayeva Kseniya、カナダのVezzoubenko Patricia、ウクライナのMazur Viktoria、グルジアのPazhava Salome、ギリシャのFiliou Varvarana らが登場する。

( 皆川前半2種目 )
皆川は4月の国際大会3連戦の後、Visa取得のため日本にてこの大会の準備に当たり、直接フランスに入った。
今大会からの目標は、コルベイソンWC~タシケントWC、ミンスクWCと連戦する中で、17点台を獲得し、世界の上位を定位置としていくことである。そのためには、落下ミスをしないことの他に、徒手難度のローテーションをより多く回っていくこと、手具操作の(DER)の終末の回転や手具操作(DER)を確実に入れ込むことや実施減点無しに行なう(M)ことが課題である。加えて明確な表現力も不可欠である。このような目標を課題として臨んだ最初の種目はフープである。
ローテーションについては、後ろ足持ちは2種類ともに2回転、パンシェを3回転まで入れ込むことに成功した。しかし、手具操作の正確性については、ローテーションを週末まで乗せた結果、音楽に少しずつ遅れ、それを取り戻そうと投げ急いで2番目のDERが詰まり終末動作ができず、2回目のダンスステップでMを抜きラストに入る、というこなしになった。ラストに遅れない、という意味では、賢い選択であった。しかし、手具操作の欠点を引かれた上に芸術的つながりにもややかけたため、結果的に16.716で17点台には届かなかった。
2種目目のボールでは、落ち着いて決めていたものの、2つ目のDERで軌道が左にそれ、その後の方向転換で注意を欠き、0.5の落下をしてしまった。過去4大会ともできなかった、ラストのDERにおける週末ポイントである「ローテーション中の視野外・足受け」に的を絞って練習して来たが、このミスによる影響からか、投げすぎて前でボールを受ける結果となった。得点は16.450。
前半2種目の順位は17位くらいで折り返した。(速報が出ないため、得点を含む正確なところは不明)

( 大会前半戦 )
上位選手で最初に登場したのは、イスラエルのフィラノフクキー選手。身長の低い選手ではあるが、個性的な演技構成にローテーションなどは3回転を確実に粘り、2種目ともに17点の前半を獲得。全WCシリーズに参加しているが、怪我もなく、ミスもほとんど無い演技を続けることで、定位置を確保しているという点で見習うべき選手である。
次にロシアのマムーン。フープではやや緊張感の感じられる箇所があったものの、2種目ともに個性的な演技で首位に立った。
一方、ロシア双頭のクドゥリャフツェバは、身長が伸び精悍な感じが加わって、他を寄せ付けない世界に入ったかに見えたボールの終盤にまさかの場外、一瞬の出来事に会場からも思わず声が上がるほどであった。この種目で16点台に沈んだものの、前半は3位で折り返した。
ウクライナのリザディノバは、ベテランの優雅さと得意のローテーションで得点を稼ぎ2位につけた。
久々に国際大会登場のベテラン、中国のデン選手は正確さと伸びやかさは健在であったが、ボールでまさかの場外があり、やや順位を落としての前半戦となった。

4時間休憩を挟んだ後のBグループは、フランスのムタファエバの登場である。3月のモスクワグランプリでは、高難度の技のミスにより演技が崩壊し得点を上げられずにいたが、4月の大会からはメキメキ成果を上げている選手である。フープボールともに個性的な手具操作の連続を次々決め、バランスやローテーションも明確である。ゴムまりのような弾力のあるジャンプで、フロアを縦横無尽に駆け巡る雌豹のような演技を披露した。細かい実施ミスは伴うものの、説得力と個性がある。曲による具体的な表現というより、技や彼女の風貌そのものが曲のイメージにあっているのである。完全に挑戦的なゾーンに入っており、まさにメダルという獲物を狙う雌豹のそれである。17点後半をマークして上位集団にピタリとつけた。
カナダのベゾベンコもロシア強化組である。ムタファエバ同様、モスクワグランプリでは緊張のあまり転ぶ場面もあったが、ペサロWCあたりからノーミスの演技で得点を伸ばしている。明確な難度と手具操作を続けることで演技構成が見えてくる、と言ったところか。ムタファエバほどの強烈な個性はないものの、17点台を確実に叩き出す実力をつけて来ている。
ウクライナのマズールは、ボールで3回落下し、得意のピボットで得点をフォローしているが、苦しい前半戦の折り返しとなった。
先週の自国開催カラマタWCにおいて2位を獲得のギリシャのフィリオウは、フープでやや不明確な箇所があり16点台だったが、ボールでは大人コケティッシュな世界観をしっかり出して、17点前半を獲得している。

本日後半戦は、Bグループからのスタートである。皆川選手には、17点台の目標に向けて果敢な挑戦を期待したい。

■第2日目
5月10日 新体操ワールドカップ コーベルエソンヌ杯 2日目、クラブ・リボンの競技が開催された。天候はあいにくの雨、気温も低い。この大会は、練習会場がシート貼りのテント、天井高は8m。
そこからコンクリートの吹きさらしの通路を10mほど歩き、競技場に入る。試合前の10分間はダンススタジオ、直前に2mほどの通路で投げを行うことができる。
競技場は斜め天井で最高の高さが10mほどである。選手には調整力を試される大会でもある。

( 皆川後半2種目 )
低い天井に対しては、当日の本会場練習で落ち着いて調整できたかに見えた。会場の手拍子を得て生き生きと踊り出す。しかし、クラブの2番目のDER2本投げを低く投げることを意識したあまり、真上に投げ上げ2つに割れた。真上で2つに割れたことから、1本が照明の中に入ってしまい、弾いて落下。会場の手拍子がここで止まってしまう。彼女の持ち技である鹿ジャンプターンでの2本投げ(片方を膝うち、片方を左手で前方に投げる ) も調整ミスで左右に大きく分かれたが、右、左と大きく走りつつもキャッチ。ここでは驚嘆の歓声を得る。
最後のマステリーの連続の見せ場。1本を投げ上げているうちに1本をつま先に乗せた状態で後方転回をしてのキャッチ。しかし次のマステリーの準備でポロリ。音に遅れて最後のマステリーに入り、曲なしで終了となってしまった。16.05 ( D8.10 E 7.966 )。
リボンでは、最初のDERで前方に強く蹴りすぎて走ってキャッチ。次のダンスステップ中のマステリーで描きが弱くなり結び目を作ってしまう。その後は落ち着いて最後まで踊り切ったが、前半ミスの減点が響き、実施で大きく減点される結果となった。15.60 。これらのミスにより大きく順位が後退し、20位となってしまった。

皆川にとっての今回の大会は、低い天井、強い湿気など外的要因に対する柔軟な適応力を問われたわけだが、この点がまだ弱いことを確認する大会となった。ダイナミックな技が武器なだけに残念ではあったが、自分に変えられないことに素早く適応して最大の成果を得ることは勝利のセオリーである。今後の課題としてしっかり受け止めて欲しい。

( 大会全体 )
大会2日目はBグループからのスタートである。
前半2種目精悍な演技でトップ集団に位置したフランスのムスタファエバ、カナダのベゾベンコも環境への対応に苦しんだ。2種目ともにミスを抑えられず、順位を下げた。特にBグループはミスが多く低い得点で推移した為、Aグループ初日でミスの出ている選手でも、巻き返しのチャンスはあった。
Aグループ登場のマムーンはアフリカン音楽に乗せて個性的な演技を繰り広げたが、ラストのマステリーで落下ミスが出た。しかし、4種目ともに反りジャンプターンの後屈が深くなるなど、明確な徒手難度に進化が見られ総合1位。時折見せる緊張による躊躇感が消えた時には、19点台に大手をかけるのかもしれない。
一方、同じくAグループ登場のクドゥリャフツェバは昨日のミスをバネに、最初から最後まで集中力全開の演技により、クラブでは18.70の高得点をマーク。前半の順位を挽回して2位。
イスラエルのフィラノフスキーも、無難ではあるが、明確で落下なしの演技により全種目17点台に乗せての7位入賞は、全ての試合にノーミスを続ける作業の賜物である。
同じくノーミスのハルキナ5位、バーバラ6位、デン8位…と上位の選手の戦い方は各々流石であり、上位集団には、身体的能力、演技の個性、それをノーミスでやり切る技量が備わっていると言える。

現在ロシア強化中の皆川・早川においても、国際大会で揉まれながら失敗も含む様々な経験を積んで、戦い切る強さを身につけることが重要である。試合前に、多くのトップ選手からの応援の掛け声も聞かれるようになって来た。前進あるのみ、である。

■第3日目
5月11日、新体操ワールドカップコーベルエソンヌ種目別決勝が行われた。本大会は40周年を迎え、 歴代のチャンピオンを招待していた。
ファイナルのスタート前には第1回目のチャンピオンであるネシカ・ロベバさんの紹介があり、当時のフィルムも流れ、観客は大いに湧いた。
クロージングセレモニーでは、歴代チャンピオンの紹介もあり、40年間の歴史を会場全ての人々が感慨深く見守った。

ファイナルでは、各種目ともに落下ミスのない、更に同じノーミスであってもよりクオリティーの高い演技に応じて得点が出るという結果になった。
ミスを最小限に抑えたリサディノバは、リスキーな技は少ないもののウクライナの目指すひたすら伸びのある動き、そして美しいアチチュードとアラベスクのピボットを4回転し毎回終末を引き上げて見せる実施力で2種目を制した。
マムーンとクドゥリャフツェバはそれぞれ落下ミスが多く出てしまったが、ノーミスだった種目では、高得点での優勝となった。
また、総合で4種目17点台を出したフィラノフスキー( ISR)は、4種目ともにやはりノーミスで抑えたが、ファイナリストの中にあってはリスキーな技や徒手難度や動きの大きさに欠け、平凡で幼稚な感じに映る。それを引き切れていない審判団にたいして、審判長( イザベラ・ ザバス )からDの得点に修正が入り、フープ以外は16点代( Dは8.0〜8.2 ) となった。ともすると、簡単でも落下しない方がいいかと思ってしまう瞬間がある中、このような結果は溜飲を下げる感がある。
高難度な技を持つがために全体の調和を欠いている皆川であるが、今日のファイナルを選手席から見て自分がどこに向かって練習をして行くべきか学ぶ良い機会になったのではないかと思う。
また、美しさに定評のある早川も、ピボットやローテーションを強化して武器とすることで皆川とは異なる活路を見出すことができるに違いない。
今大会のような明確な結果をもたらすことは、新体操がどの方向に進むべきかという命題に対して、選手・コーチ・審判がそれぞれ理解して進む良い道しるべになるし、その先に生まれるであろう世界選手権のクオリティーが観客を大きくわかせる結果になるのではないかと思うと、希望に胸が躍る思いである。そこに日本の選手たちが良い成績で絡むことができたら、それは最高に幸せな結果と言える。

優勝者は、以下の通りである。
フープ…リサディノバ( UKR )18.010 (9.0-9.1 )
ボール… リサディノバ( UKR ) 17.850 (8.85-9.0 )
クラブ… マムーン ( RUS )18.433 ( 9.25-9.23 )
リボン… クドゥリャフツェバ ( RUS )18.616 ( 9.25-9.37 )

レポート 岡久留実