第36回世界新体操選手権レポート2

報告者:山﨑浩子

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9月11日、第36回世界新体操選手権ソフィア大会2日目は、国別対抗戦2日目、同時に個人総合予選・種目別予選が行われた。国別対抗戦は各国3名から4名で競われ、本年はフープ3演技、ボール3演技、クラブ2演技、リボン2演技と決められており、計10演技中ベスト8を合計した点数で競われる。

日本からは皆川夏穂、喜田純鈴、大岩千未来の3選手が出場。
フープ 皆川、大岩、喜田
ボール 皆川、大岩、喜田
クラブ 皆川、大岩
リボン 皆川、大岩
というオーダーであるが、1日目がボールの演技であった日本は、2日目はフープの演技。

昨日、世界選手権デビュー戦を素晴らしい演技で飾った大岩は、今日も落ち着いた演技を見せた。
ローテーションの終末もさほど乱れることなく、ていねいに演技した。
一か所ミスが出そうな投げがあったが、フープの回転をよく見て対処。最後まで集中力を切らすことがなかった。
17.400(D難度点9.400 E実施点8.000)で、昨日に続き、フープも17点台に乗せた。
Eも8点台に乗せることができたことから、しっかりとアピールできていると言えよう。

喜田は昨日、大きなミスに泣いたが、今日のフープの出だしは、芯の入った演技であった。
しかし、成功率の低いMGキックでのキャッチで落下すると、ラスト間際のR(リスク=手具を投げ上げ、2回転以上の転回を行う)の足キャッチで再び落下。フープが一度場外に出て、戻ってきたところを取って、ローテーションにつなげてポーズした。
2度の大きな落下で12.950(D7.300 E5.950 P場外ペナルティ-0.3)で、喜田にとっては苦い大会となった。
いずれも体を反らせた状態でのミスであるが、腰椎を痛めて、反りの角度も以前とは違っているため、自分がこれまで得てきた感覚と違っていたのかもしれない。

昨年は世界選手権デビューで、フープの種目で種目別決勝進出も果たした。しかし今季は春先に故障してから長く動けない日々を越え、やっとどうにか世界選手権に出場できるまでこぎつけた。復帰は果たしたが、復活にはまだ遠いところにいるが、彼女のポテンシャルを考えると、まだまだやれるはずである。自分がどのような選手になりたいのか、何点を獲得したいのか、そのためにはどうすれば良いのかと、明確な目標を持って日々練習を積んでいけば、復活も果たせるに違いない。そのためにも、今大会の悔しさを忘れてはならない。

日本の最終演技者である皆川は、バランスでの投げが少し前になり、移動してキャッチ。他のバランスでもキープの時間が短くなるなど、細かいミスが出た。しかし、絶対に落下はさせないという強い意志は見えた。
17.850(D9.700 E8.150)

皆川も昨年の世界選手権ではフープで種目別決勝進出を果たし、銅メダルを獲得したが、今季から再度ルールが変更されてD得点が青天井になったことで、皆川にとっては若干不利なルールとなり、フープもボールも種目別決勝に進むことができなかった。

DはD1<BD身体難度(ジャンプ、バランス、ローテーション)とS ステップ>の価値点と、D3<AD(加点対象となる手具操作)、R(リスク>の価値点とを合わせたものがD得点になっているが、今季のルールの勝ち方は、とにかくAD(加点対象となる手具操作)を詰め込み、Rを豊富に入れることである。

皆川もルールに対応すべく、多くのADを入れてきたが、それでも上位陣とは1点以上の差がある。作品に組み込まれていながら、やれていない部分もあるが、それよりも作品構成上、まだまだ足りない。

美しい演技や深みのある演技より、間を置かず曲芸師のように足で投げ足でキャッチして、クルクルと回り、多くのADやRを入れたほうが得点を獲得しやすいのである。

その傾向が如実に出たのが、ボールの種目別決勝。
種目別決勝は上位8名(各国最大2名)が出場できるが、ボールの種目はイスラエルのASHRAMが予選でミスして出場できなかったため、金メダル争いはロシアのDina AVERINAとSOLDATOVAに絞られた。

先に演技したのはDina。
ボールのキャッチにもたつくところはあったが、次々とADやRをこなし、20.300(D11.200 E9.100)。金メダルを獲れる点数である。

続いてSOLDATOVA。
伸びやかで張りのあるBDとRなどの大技も決め、何より音楽の膨らみとそれに呼応する動きのボリュームがマッチして、素晴らしい演技であった。最後、キャッチした後の操作にヒヤッとさせられたが、うまく対処してポーズを終えると、会場からは鳴りやまない拍手と歓声が送られた。多くの人がSOLDATOVAの勝利を確信しつつ得点が掲示されるのを待ったが、結果は20.200(D11.000 E9.200)。
Dinaに0.1及ばず、Dinaが1位、SOLDATOVAは2位となると、ブーイングも巻き起こった。

D1(BDとS)の得点はDinaが4.6 SOLDATOVAが5.5
圧倒的にSOLDATOVAが上である。

しかしD3(AD、R)の得点はDinaが6.6 SOLDATOVAが5.5
1点以上の開きがある。

SOLDATOVAは大技は多いが小技が少ない。体が大きいため、Dina AVERINAやArina AVERINAのように動きのコマ数を入れられない。
SOLDATOVAの演技は、ダイナミックかつ繊細な動きで、芸術的な作品と表現であると思うが、E実施点の中で評価される芸術点は、作品の良さを評価するまでに至っていない感がある。(芸術点も減点方式であり、DinaとSOLDATOVAはどちらも0.4の減点)

今季のルールの勝ち方は、動きのしなやかさや音楽の表現ではなく、D3の豊富さであると確信した瞬間であった。

ボールの3位にはイタリアのAGIURGIUCULESEが入った。とても器用な選手であり、難しいADを難なく決めた。
EはSOLDATOVAに及ばないが、Dは11.200でDinaと並んだ。
19.900(D11.200 E8.700)

メダルが狙える位置にいたブルガリアのTASEVAとVLADINOVAは二人ともミスが出て、7位と8位に沈んだ。

フープの種目別決勝もDina AVERINAが優勝。20.850(D11.700 E9.150)
2位にはイスラエルのASHRAMが入った。まったく隙のない演技で20.000(D11.400 E8.600)
3位はArina AVERINA。ADをやらない箇所があり、19.700(D10.700 E9.000)

個人総合予選は2種目まで終えたが、
1位はSOLDATOVA  40.375
2位はDina AVERINA  40.300
3位はArina AVERINA 40.250
と僅差でロシア勢が並んでいる。

個人総合決勝に進めるのは24名で、各国最大2名。ベスト3演技の合計点で競われるが、ロシアのオーダーは以下の通り。
フープ SOLDATOVA、Dina AVERINA、Arina AVERINA
ボール SOLDATOVA、Dina AVERINA、Arina AVERINA
クラブ Dina AVERINA、Arina AVERINA
リボン SOLDATOVA、Arina AVERINA

つまりArinaが4種目、DinaとSOLDATOVAは3種目ずつの演技である。
Arinaが1種目にミスがあったとしても残り3種目の点数を加算されるので余裕があるが、DinaとSOLDATOVAは、演技したすべての点数がそのまま加算される。1種目もミスができないという点でプレッシャーがかかるであろうし、個人総合決勝に3人のうち誰が出場できるかも、今の時点ではまったくわからない。

各国のオーダーを細かく見ていないが、フープとボールのどちらも演技した選手だけでも142名いる。
その中で個人総合決勝に進む対象者ではない選手もいる(3演技しないため)が、それでもこれほど多くの選手の中から、個人総合決勝に進むのは容易なことではない。

皆川は現在14位、大岩が21位に位置しているが、ベスト3演技の合計であるため、こちらもまだ見通しは立たない状態である。

明日は国別対抗戦、個人総合予選3日目(同時に種目別クラブ、リボン予選)が行われ、日本はクラブの種目に出場する。