第36回世界新体操選手権レポート4

報告者:山﨑浩子

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<国別対抗戦・個人総合予選(種目別予選)>
9月13日、第36回世界新体操選手権ソフィア大会4日目は、国別対抗戦最終日、同時に個人総合予選・種目別予選(クラブ・リボン)が行われた。
国別対抗戦は各国3名から4名で競われ、本年はフープ3演技、ボール3演技、クラブ2演技、リボン2演技と決められており、計10演技中ベスト8を合計した点数で競われる。

日本からは皆川夏穂、喜田純鈴、大岩千未来の3選手が出場。
フープ 皆川、大岩、喜田
ボール 皆川、大岩、喜田
クラブ 皆川、大岩
リボン 皆川、大岩
のオーダーとなっているが、国別対抗戦最終日の日本はリボンの演技。

国別対抗戦と個人総合予選は同時に行われ、個人総合決勝進出選手(上位24名 各国最大2名)は、ベスト3演技の合計点で決定する。

リボンで先に登場したのは大岩。
初日から3日間を通じて落ち着いた演技を見せてきた大岩は、今日のリボンでも非常に丁寧な演技をした。
リボンのスティック部分を足で踏み、その後リボンを集めるところでもたつきが見えたが、相変わらずローテーションの精度が良く、後方支持ありのローテーションでは回転数もすばらしかった。小さい身体からエネルギーも溢れ、伸びやかな演技であった。
16.850(D難度点8.900 E実施点7.950)

続く皆川も非常に落ち着いていた。
リボンが体に近い箇所はあったが、最後まで集中力を切らすことなく、美しい演技を見せた。
点数は18.100(D9.400 E8.700)
彼女にとっては、現在のところ、これ以上ない演技で、3位で種目別決勝進出を決めた。

個人総合予選のランキングは、皆川が12位、大岩が17位(121人中)
昨日のレポートでは失礼ながら、これ以上3種目合計の点数は上がらないだろうと書いたが、大岩が0.05アップさせて51.550。皆川も0.45アップさせて54.350。
順位はひとつずつ落としたが、できる限りの力は発揮して、ふたりとも明日の個人総合決勝進出を決めた。また、国別対抗戦では(ベスト8演技の合計)で8位に入賞した。

国別対抗
1位はロシア。
2位にブルガリア。
3位にイタリアが入った。

個人総合予選1位はロシアのDina AVERINA。
本日のリボンは演技していないが、昨日までの3種目合計が60.800でトップ。
そしてロシアのもう一人の個人総合決勝進出選手は誰になるかと興味深かったが、それはとてもドラマチックなものであった。

先に演技したのはSOLDATOVA。
昨日までの3種目合計でArina AVERINAは60.000。昨日のクラブを演技していないSOLDATOVAがArinaを超えるには、19.625より上の点数が必要である。
リボンはAD(加点対象となる手具操作)を入れづらく、6mという長いリボンを操るため実施減点が出やすいという特性上、この19.625という点数はなかなか厳しいものである。
しかし、SOLDATOVAの演技は、そういった点数の計算などを忘れさせるほど素晴らしいものであった。

スタートのポーズをとり、伴奏音楽のピアノの音が ”ぽろん” と鳴り始めると、観客は彼女の世界に引き込まれる。R(リスク=手具を投げ上げ、2回転以上の転回を行う)の精度や、BD(身体難度=ジャンプ、バランス、ローテーション)の精度も良く、エネルギッシュでありながら、どこまでも繊細で、観客の心を打つのに十分な演技であった。
得点は19.900(D10.600 E9.300)。3種目合計で60.275でArinaをいったん上回った。

次に演技するのはArina。
今度はSOLDATOVAを上回るために、20.025を超える点数が必要。そのArinaは出だしの技でリボンがからまり、結び目ができてしまう。ルールにより結び目をほどかずに続けると、BDなど多くの技がノーカウントになってしまう。瞬時にほどこうとしたが、結び目の状態からほどけないと判断した彼女は、自分のリボンを場外に出して、組織委員会が準備している予備手具のリボンを使用して演技を続けた。だが、リボンを投げようとした瞬間、リボンとスティックのつなぎ目が破損したのか、スティックが場外に飛んでいく。そのままでは演技は続けられないので、破損したリボンを場外に出し、ふたたび予備手具のリボンを使用することに。
結果は13.800(D7.000 E6.800)。
場内は騒然となった。
こういったケースを見るのは初めてであるが、自分の手具ではなく予備手具の破損であるため、再度演技が許されるのではないかと考えたりもしたが、結局再演技は行われず、昨日までの3種目合計60.000がそのまま生きることになった。

ドラマチックな幕引きで、ロシアの個人総合決勝進出選手は、Dina AVERINAとSOLDATOVAに決定。
SOLDATOVAは最高の演技で個人総合決勝進出を手繰り寄せた。

個人総合決勝進出者の中での3位は、ウクライナのNIKOLCHENKO 58.000
4位ブルガリアのTASEVA 57.450
5位イタリアのBALDASSARRI 56.600
6位ブルガリアのVLADINOVA 56.450

ブルガリアのKALEYNは、リボンですばらしい演技をしたが、ボールでのミスが響き、個人総合決勝進出はならなかった。

7位イスラエルのASHRAM 55.900
リボンで大きなミスはなく、18.550 。2種目のミスがあったため、この位置にいるが、決勝ではメダルをかけて巻き返しを図るだろう。

8位イスラエルのZELIKMAN 55.700

ジョージアのSalomeは昨日のリボンで、結び目ができたまま演技を続けて最後は落下となり、13.650。
昨日の時点では圏外であったが、今日のクラブで18.400を出し、3種目合計51.550で大岩と同点。タイブレークによりSalomeが上で16位にジャンプアップ。決勝進出を果たした。

ほかにも、ボールの種目別決勝で銅メダルを獲得したイタリアのAGIURGIUCULESE、ベラルーシのHALKINA、SALOS、USAのZENG、GRISKENAS、スロベニアのVEDENEEVAらが決勝に進出しており、見ごたえ十分である。

<種目別決勝クラブ>
大会4日目となり、多くの選手に疲労感が見える。
また、個人総合予選を戦ったあとの種目別決勝のため、落下ミスをしない選手がほとんどいない状態となった。
試技順1番のウクライナのNIKOLCHENKOから始まり、ロシアのArina AVERINA、ブルガリアのTASEVA、イタリアのBALDASSARRI、ジョージアのSalome、ロシアのDina AVERINAまで落下ミス。
ブルガリアのVLADINOVAは落下こそなかったものの、多くの投げが乱れて、その対処に追われた。
ただ一人、会心の演技を見せたのは、ベラルーシのHALKINA。
パンシェのローテーションもいつもより回り、ADやRなども正確にこなして、深みのある動きを見せた。
ポーズを終えるとガッツポーズ。
ADの数で勝るDinaには0.1及ばなかったが、DinaとArinaの間を割って、2位に食い込んだ。

1位Dina AVERINA(ロシア)
2位HALKINA(ベラルーシ)
3位Arina AVERINA(ロシア)

<種目別決勝リボン>
試技順1番は、予選3位で決勝に進んだ皆川。
3位で進んだために期待値は高かったが、出だしからリボンが体に近く、なんとなくリズムに乗り切れていなかった。リボンのたるみも多くなり、これでは3位は無理だと思った瞬間、MGキックのローテーションで起き上がるBDでバランスを崩して、両手を床についてしまう。
その後も結び目ができたりとどうにもならなくなり、結び目をほどくのに時間をつかって焦ったのか、直後の足投げでは場外。落下ミスなど大きなミスが相次ぎ、10.600(D6.300 E5.000 P場外、タイムー0.70)
昨年に続くメダル獲得はならなかった。

1位SOLDATOVA(ロシア)
2位BALDASSARRI(イタリア)
3位ASHRAM(イスラエル)

SOLDATOVAは予選のほうが良い出来であったが、大きなミスは回避した。
ASHRAM、BALDASSARRIともにミスはなかったが、BALDASSARRIのほうがD得点が上回り、銀メダル。

今大会、国別対抗戦でイタリアは銅メダル。
ボールで銅メダル。リボンで銀メダルと、勢いづいている。
イタリアの選手は、BDとAD、そして表現のバランスが良く、難度の羅列にはなっていない。
ふたりともまだ16歳、17歳の若い選手であるが、難しいADをやりながらも表現ができており、すばらしい選手たちである。

イタリアは団体が強いというイメージであったが、個人の強化も順調に進んでいるようである。
日本も、本格的な個人の強化に着手したのは2013年から。
少しずつ成果は出ているようで、まだまだトップには遠いが、歩みのスピードを速めて進んでいかなければならない。

明日(14日)は個人競技の最終日、個人総合決勝が行われ、皆川はAグループ(予選1位~12位)、大岩はBグループ(予選13位~24位)で演技する。
個人総合予選は3種目合計で競われたため、4種目の演技をした選手は、1種目ミスしても影響はなかったが、決勝は4種目すべての得点が加算される。また予選の得点は持ち越されないので、力がありながら下位に位置している選手にも、上位へ食い込むチャンスはある。

そして戦い方もまったく違う。
予選では1日に1種目ずつ行われてきたが、明日の決勝では4種目を短い時間の中で演技する。
精神的にも肉体的にも疲労していく中で、どれだけの集中力を保っていられるか、が鍵となる。
皆川も大岩も、心も体もタフに戦ってもらいたい。